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訳アリ食堂店員、勇者になってしまう〜学園の嫌われ者がイケメン英雄になるまで〜  作者: はえたたき


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15.世界が待ち望んだ者

 光が、静かに収まっていく。

 耳鳴りのような残響だけが、まだ空気に残っている。


「っ……」


 ヤマトがうっすらと目を開ける。

 あんな大怪我を負ったのに、どんどん体が軽くなっていく感覚に違和感を覚える。

 回復している?回復のエネルギーを感じる。

 一体、なぜ―――視線をあげた。


「……ユラ……?」


 そこに立っていたのは、知っているはずの姿。

 でも、まるで別人だった。


 黒髪が風に揺れている。

 黒い瞳だったものが黄金に変化し、細められている。

 背筋も伸びていて、無駄のない立ち姿。

 神々しいほど美しく見えた。


「……ユラ、なの……?」


 ハヤミも壁にもたれたまま目を見開いていた。

 回復のおかげで動けるようになっていく。

 あの姿から目を逸らせない。


 その時、ユラがゆっくりと振り返る。

 その美しい黄金が二人を捉える。


「……下がってろ」


 低い声だった。

 短く、それだけ。

 そっけないように思えて優しい響き。

 今まで女性だった声が、男性のように低い。

 ハヤミの心臓が、どきんと大きく跳ねた。


「ユラ、なんだね……なんか、神々しい」


 ヤマトも目を細める。

 もしかして、あれが――――……



 ユラはゆっくりと歩き出す。

 足取りは静かで、女を睨みながら進む。

 途中、壁に飾られていた剣に目を付け、手を伸ばす。

 どこにでも売られている安物の剣で、鞘から抜いた。

 金属音が夜に響いて軽く舞のように振る。

 まるで歴戦の剣士のような手慣れた剣さばき。

 安物だがこれで十分。


 向こうで魔物が唸る。

 こちらを敵として認識した次の瞬間――――


 消えた。

 いや、動きが見えなかった。

 ただ、煌めく一閃だけが見えた気がした。


 風が遅れて鳴る。

 魔物が唐突に崩れ落ちる。

 断面が遅れて現れた。


 もう一体。さらに一体。

 すべてが一瞬で、目に見えないスピードで蹴散らされていく。


 そして、静寂。

 そこに残ったのは女だけになった。


「……は?」


 間の抜けた声が漏れる。

 どういう事だ。

 醜いデブだったあいつがなぜどうして。


「なんなの、あんた」


 一歩、後ずさる。


「いきなりすっげぇイケメンになって、人間とは思えない動きであっさり全部倒して……意味が分からないわよ」


 目を細める。


「……まさか、あんた……」


 女は震えた。

 初めて脅威を感じる。


「やだっ、すごすぎぃ……情緒がやばいぃ」


 ハヤミが小さく呟く。

 目が、完全に輝いている。

 恋する乙女のように、頬は果実のように染まっている。


「超カッコいいんだけどぉ。きゃー♡」


 色めき立つハヤミの近くで、ヤマトは静かに息を吐いた。


「……やっぱりな」


 少しだけ口元が緩む。

 見立ては間違ってなかった。

 彼こそが――――



 ――――世界が待ち望んでいた者。



 女の唇が、ゆっくりと吊り上がる。


「……ふふ」


 笑う。武者震いか恐怖かわからない。


「面白いじゃない。あんたが本当に()()なら」


 指をくるりと回す。


「じゃあ、これはどうかしら」


 空間が裂ける。

 先ほどとは比べ物にならない圧だった。

 ずるりと巨大な影が這い出てくる。

 地面に降り立った瞬間、


 ドォン。


 大地が沈む音が響き渡る。

 局地的な揺れを感じるほどの重量級の大きな影。

 現れたのは、異様に肥大化した巨体。

 魔界にしか生息しないとされるオークキング。


 筋肉が膨れ上がり、皮膚は岩のように硬質。

 手には常識外れの大きさの棍棒。山のような身長。



「うわあああ」

「ひいいい!きょ、巨大な魔物だぁあ」

「なんて大きさだ」


 いきなりの巨大な魔物に、悲鳴が夜の王都に響き渡る。


「あんな山みたいにでかいの、城の兵隊が束になっても勝てねえよ」

「とにかく逃げるんだぁ!」

「死にたくないー!!」


 店の中や路地にいた人々が、一斉に王都の外へ逃げ出す。

 皿の割れる音、椅子が倒れる音、周囲の混乱。

 子どもが泣き叫ぶ。


「お父さん、こわいよぉ!」

「こっちだ!走れ!」

「ひいいい!」


 大人たちも余裕がない。

 ただ我先にと必死で逃げるしかない。

 だが、逃げない影があった。


 ユラの父のゲンジローだ。

 腕を組み、じっと戦場を見据えている。



「……ほう」


 低く呟く。

 その視線の先にはユラ。我が子だ。

 さっきまでとは別人のような姿に釘付け。


 揺れる黒髪、纏う神々しい雰囲気、黄金の瞳。

 見惚れるほどの凛々しい姿。

 ゲンジローの目が細くなる。


「ゲンジローさん」

「サクラコさん、あんたは逃げないのか。吹き飛ばされるぞ」

「皆さんここにいらっしゃるのに、私だけ逃げるわけにはいきません。それにユラさんがいらっしゃいますから」


 サクラコの視線はユラをじっと捉えている。


「やはり、あの方は只者じゃないと思っていましたわ。本当は、とても頼もしい方」


 その瞳は未知なる期待に輝き、頬は赤く染まっていた。


 

「うそでしょぉ」


 ハヤミが息を呑む。


「あんな山みたいな魔物反則でしょうが」


 いくらユラでも……と、心配を隠せない。


「さあ……それはどうかな」


 ヤマトの目が細まり、ユラを見守る。

 その力の可能性を信じていた。




「ぐおお……」


 オークキングは低く唸る。

 ユラは動かない。

 動揺もせずに、ただ立っている。


 オークキングが、棍棒を振り上げる。 

 振り下ろされた瞬間、風圧がごおっと走る。

 地面も亀裂が走り、大きく裂けた。


 だが、ユラはそれでも微動だにしない。

 髪や服が風で揺れるだけ。

 それを見たオークキングが咆哮をする。


 ナメられたと明確な怒りで、敵意をにじませて絶叫する。

 そして、再び振り上げる。

 今度は一直線にユラに向けて、渾身の力が振り下ろされた。



 ドン。



 ぶつかる音がして止まっていた。

 片手。

 それだけで棍棒を受け止めている。


「は……?」


 女の唖然とした声が漏れる。

 完全に予想外といった顔だ。


「……この程度か」


 ユラは静かに呟く。

 そのまま棍棒に力を入れると、


 ミシミシ。


 どんどんひびが入っていく。

 さらに力を入れ続けると、


 バキン。


 あっけなく棍棒を粉砕した。

 オークキングが一瞬、怯む。

 表情からして動揺しているのがわかる。


「……なによ、それ」


 女の笑みが引きつった。


「そんなの、勇者なんてもんじゃないじゃない……っ」


 明らかに規格外だと反応が物語っている。


「……俺の大事な人に、手を出すな……」


 その次の瞬間、ユラが消えた。

 刹那――――煌めく一閃。

 遅れてオークキングの脚が切断された。

 巨体が傾ぐ。


「グォォォォォ!!」


 オークキングが、あらゆる感情を綯い交ぜにした絶叫を上げる。

 怒りか、恐怖か、それとも本能的な危機感か、判別できない叫びだった。

 だが、それも長くは続かない。

 ユラは、ゆっくりと右手を上げる。

 空を指すように。


 空が変わる。

 雲が集まり、渦を巻く。

 黒い雷雲が一瞬で集まり、大気そのものが唸りを上げる。

 空気が震え、肌に刺さるような圧が場を満たした。


 誰も動けない。

 ただ、その中心に立つユラだけが静かだった。


「……終わりだ」


 低く、確定した声。

 その手が、振り下ろされる。


 ズドォオオオン。


 白雷が、天を裂いた。

 一直線に逃げ場なく、オークキングの巨体を貫き、呑み込む。

 光は暴れ、膨れ、収縮し、次の瞬間には何も残っていなかった。

 焦げた匂いすら残さず、ただそこに存在していたはずの何かが消えているだけだった。



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