10.光の魔力
朝の仕込みを終えて学園に着くと、ちょうど一時間目は光属性の実技だった。
他の属性の授業もあるが、魔王復活が近いからやはり光属性の授業に力を入れている。
中庭の訓練場に、生徒たちが円になって並ぶ。中央には魔力測定用の水晶球。
「今日は基礎の確認だ。順に触れて、各自の光魔力量を測定する」
教師が淡々と告げる。貴族生徒が順に触れていき、ほどほどの数値が並ぶ。拍手も歓声もどこか予定調和。
ぼうっとしていると俺の番が来た。
「……えっと、入学式の時みたいに触れればいいんですよね」
「そうだ。軽くでいい」
手を置いた瞬間、水晶の奥で光が走った。
白い光が一気に満ちて、目盛りが上へ上へと跳ね上がる。
カン、カン、と限界に当たる乾いた音。それでも光は止まらない。
「……最大値、だと?」
「へ……?」
教師が一瞬だけ目を見開いた。俺もほうける。周囲も、ほんの一瞬静まる。
「壊れてんだろそれ」
「デブスがMAXとか冗談きつ」
「昨日の落雷のせいで誤作動してんじゃねーの?」
「ま、そうだよな。ありえないし」
「そういえば昨日の落雷すごかったね。真っ白い稲光が平民街で落ちたんでしょ」
「まるで勇者が落とした稲妻だったって噂」
私語が一気に増えて、教師も咳払いをひとつ。
「私語は慎め。えー機器の不調だな。後で整備班に回す。次」
あっさり流された。
まあ、いいか。
別に自分の魔力量なんて興味ないし、MAXだなんて確かに壊れているよね。
掌に妙に熱が残っている。
昨日のネックレスの感触に、似ている気がした。
「次は実戦想定だ。低位魔物に対し、光魔法での無力化を行う」
檻の向こうで、弱いスライムや小型の魔物がうごめく。
各自、詠唱して光弾を当てるだけの簡単な訓練だ。
貴族生徒の光弾が次々に放たれ、ぱしゅんと軽い音で魔物が弾けていく。
「はい次、ユラ・ハナゾノ」
「……はい」
あまりやる気はないが、それなりにやってますアピールは必要だ。教師に不真面目だと目をつけられるのも嫌なので、かるーく。深呼吸。
体の奥に何かがあるそれを、いつも通りに外に出すイメージで――
「えー光よぉ」
手のひらに光が集まる。いつもよりなんだか濃い。
次の瞬間、
ドォン。
落ちた。
なぜか掌ではなく、空から一直線に。
光の稲妻が、檻の中の魔物を貫いた。
眩い閃光。衝撃。焦げた匂い。
さっきまで動いていた魔物は、跡形もなく消えていた。
「……は?」
誰かが素で声を漏らした。
教師の口が、わずかに開く。
「今のは……光の稲妻、だと……?」
教師の声が唖然としている。
一瞬だけ、空気が張り詰めた。
誰も笑わない。
誰も息をし忘れたかのように、あんぐり口を開けている。
「いやいやいや、見間違いだろ」
「光弾がたまたま弾けただけだって」
「勇者専用の魔法だぞ?デブスが使えるわけないだろ」
「だな。今のは昨日の雷がたまたま落ちただけだ。魔王復活が近いからそりゃ不思議な事くらい起きるだろ」
「つかデブスが勇者だったらそれどんな罰ゲームだよ」
「ぷ、世界滅んじまうじゃん。ぎゃははは」
どっと笑いに変わる。いつもの空気に戻る。
その中で、今の本当に偶然なの?と、疑問に思う声もあったが、すぐに笑いにかき消された。
教師も一瞬だけ迷って、結論を出した。
「……出力過多による現象だ。制御が未熟だな。次からは出力を抑えろ」
「は、はい……気をつけます……」
なぜかこちらが注意されてしまったのが腑に落ちない。
制御が未熟なのかたまたまなのかそれとも……いや、考えないでおこう。
また掌がじんと熱いな。
昨日より熱が強い気がした。
その遠くで、ヤマト殿下がじっとこちらを見ていたのを俺は知らなかった。




