表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
訳アリ食堂店員、勇者になってしまう〜学園の嫌われ者がイケメン英雄になるまで〜  作者: はえたたき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/37

11.王太子と公爵令嬢

 昼の鐘が鳴り、学園中が一気にざわついた。

 食堂へ向かう生徒たちの流れを横目に、俺はいつもの中庭の端に座る。

 今日も一人飯だけどいつもの事だ。無念無想しながら食べよう。外野は空気。

 弁当を広げたところで、


「おーいユラぁ♡」


 聞き慣れた声が飛んできた。


「……あ」


 振り向くと、ハヤミさんが手を振りながらこちらに駆けてくる。

 周囲の視線が一瞬でこっちに集まった。


「一緒に食べよ♡」

「え、一緒にって……」


 断る間もなく当然のように隣に座る。やっぱり距離が近すぎないかこの子。


「ほらほら、詰めて詰めて♡」

「いや詰めなくても座れるじゃん」


 肩が軽く触れる。

 なんでこんな近いんだ。白馬の王子ブームだから近いんだろうか。デブ専やブサ専疑惑あるもんな。

 その光景に周囲がざわつく。


「……なんであのデブスと」

「ハヤミ様、正気か?」

昨日の件(婚約破棄)で調子に乗ってんじゃねーのか」

「デブスとメシとか公爵令嬢のご乱心だろ」


 ひそひそ声が普通に聞こえてくる。

 全部聞こえてますけど。


「はい、あーん♡」

「いや自分で食べるから!」


 箸でつまんだおかずを差し出してくる。

 完全に周りを気にしていない。


「遠慮しなくていいのにぃ♡」

「遠慮とかじゃなくてだね……!」


 顔が熱い。

 なんでこんな事になってるんだか。


「何してる」


 低い声が割り込んできた。

 振り向くと、ヤマト殿下が立っていた。


「で、殿下……」

「座るぞ」


 断る余地もなく、反対側に腰を下ろす。

 え、ちょっと待って。この二人に左右を挟まれたんですけど。

 君らなんでそうデブスと一緒に食いたがるの。やっぱりデブ専とブサ専なのかよ。


 逃げ場がない。どうしよう。

 周囲の空気が一段階冷える。殺伐としている気がする。


「……なんで王太子殿下まで」

「あの無表情の殿下が……意味がわからん」

「囲われてんのかあいつ……」

「弱み握ったのか握られたのか」


 さっきまでのざわつきが、明確な敵意に変わる。

 俺の平穏な生活が遠ざかりそう。


「お前が作ったのか」


 殿下が弁当を覗き込んできた。


「え、あ、まあ……。テキトーに昨日の残りを詰めただけで」

「一口もらう」

「え……」


 なんで?

 昨日のただの残り物を殿下に食わせるわけには。


「ダメか」

「い、いや、だ、ダメじゃないですけど……で、でもですね……」


 戸惑っていると、ハヤミさんがすかさず割り込む。


「だーめ♡ユラのものは全部ハヤミのものー。食べさせてあ・げ・る」

「いやだから自分で食べるってば」


 なんなんだこの状況。

 左右からの圧がすごいし、周囲の視線も痛い。

 もう帰りたい。俺の平穏生活が遠くなっていく。


「ユラ」


 ふと、殿下が小さな声で言う。


「さっきの授業、見た」

「……え、さっきの授業って」


 顔を上げる。

 さっきまでの表情じゃない。

 少しだけ、真剣な目。


「お前、自分で思ってるより――」

「はいユラあーん♡」

「話の途中で!?」


 ハヤミさんが強引に口に突っ込んできた。

 これ、高級ステーキだ。


 もぐ。


「……んぐ」


 普通にうまい。すっげえ肉柔らかい。さすが公爵家のメシ。平民が一生食えない肉質にうっとり。


「どう」

「……美味しいです」

「でしょ♡」


 満足げに笑う。

 その横で、殿下が小さく息を吐いた。


「……まあいい」


 何がまあいいなのかはわからないが、ただ一つわかる事は、周りの視線がさっきよりも明確に痛くなっていることだった。


「ユラ、これも食べる?」


 ハヤミさんが自然な動きで、また距離を詰めてくる。

 肩が触れるどころか、ほぼ寄りかかってる。

 もうやめて。いたたまれないです。


「いや、だから自分で食べるって」

「遠慮しなくていいのにぃ♡」


 完全に外野の視線を無視している。完全スルースキルが羨ましい。というか、気にしてるの俺だけか。


「ハヤミ嬢」


 反対からヤマト殿下。


「少し距離が近すぎるんじゃないのか」


 その声はわずかに低かった。


「えー?別にいいじゃないですかぁ」


 にこにこと笑いながらも、ハヤミさんは一歩も引かない。


「ユラは嫌がってないもんね?」

「え、いや、その……」


 振らないでほしい。

 どっちに答えても地雷な気がする。

 本心は嫌ではないような、空気的にもうやめてほしいような……そんな事言えない。


「ほら」


 さらにぐっと距離が詰まる。

 腕に柔らかい感触がして顔が引きつる。

 もうやめたげてよー。周りの視線がさらに痛いよぅ。


「……そういう問題じゃない」


 殿下が小さく息を吐いた。

 そのまますっと立ち上がる。


「ユラ」

「え?」


 次の瞬間、殿下の手が俺の肩に軽く触れた。

 ぐいっと引かれる。


 え、なんで引き寄せられた?近いし。いい匂いが鼻を掠める。

 体の向きが変わり、ハヤミさんとの距離が自然に離される。

 でも、何にせよ逃げ場はない。どうあがいても脱出不可能です、ありがとうございました。


「この位置の方が食べやすいだろ」


 気がつくと、日差しを背にした場所に座らされていた。ちょうど影になって、眩しさが消えている。


「さっきから目を細めていた」

「……あ」


 言われて気づいた。

 確かに少し眩しかった。

 そこまで気にしてなかったのに。

 でもそうじゃない。そうじゃないんだけど、ありがたいようでありがたくない。


「あと」


 殿下は何気ない動きで、自分の上着を外す。

 それを、俺の背もたれにかけた。


「風も少し強い。体を冷やすとよくない」

「いや、そこまで――」

「気にしなくていい」


 なんだこれ。

 さっきまでと同じ人なのに、空気が違う。


「……へぇ」


 横から、ハヤミさんの声。

 にこにこしているけど、目が笑ってない。


「ずいぶん自然に触りますね、殿下」

「必要なことをしただけだ」


 さらっと返す。


「ふぅん?」


 ハヤミさんはゆっくりと俺の腕に指を絡めた。


「じゃあハヤミも必要な事するね」


 ちらりと殿下を見る。


「いやだから何が必要なの!?」

「ユラが寒くないように、こうしてあげるの♡」


 ぎゅっと抱きついてくる。

 いや、逆に暑いっす。デブなんで汗がドバッと出てます。

 そして視線がもう殺伐どころか殺意の波動に変わっている。

 殿下大好きファンクラブの令嬢達が泥棒猫……いや、泥棒熊を殺してやる勢いなんですが。

 あとで俺終了のお知らせ。


「お前は極端だな」


 その目は、わずかに細くなっていた。


「ユラ」

「は、はい」

「困った事があったら言え」


 静かな声。


「できるだけ対処する」


 一瞬だけ。

 本当に一瞬だけ。

 誰にも触れさせないみたいな圧があった。


「……あ、はい」


 うまく返事ができない。

 なんか、変な感じだ。


「大丈夫だよ、ユラ」


 ハヤミさんが頬を寄せてくる。


「守ってあげるから♡」

「いや守る方向性がおかしいって……」


 左右からの圧。

 殺意の視線の嵐。

 逃げ場なしだ。


 なんで昼飯でこんなことになるんだよおっ。

 俺の平穏グッバイドスコイ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ