第91話:全肯定の光
「――おい、化け物。お前のやってることは、ただの矮小な嫌がらせだぜ」
大介(エイミー体)の声が、冷え切った過去の幻影を切り裂きました。
霧の向こうで、レムナント・イリュージョンが形を歪ませ、嘲笑うようなノイズを響かせます。
(……無駄だ……この絶望はお前の体の奥底に刻まれた真実……。愛されず、期待されず、ただ朽ちていく運命……)
「運命? そんなもん、俺が上書きしてやるよ」
大介はエイミーの魔導杖を天高く掲げました。
本来、エイミーの魔力は繊細で鋭い「破壊」を得意としますが、今、大介が練り上げているのは、彼女の心の奥底にある「誰かを守りたい」という願いを燃料にした、爆発的なまでの肯定のエネルギーでした。
「エイミーは落ちこぼれなんかじゃない。実家を飛び出し、異世界で俺と出会い、
誰よりも自由に、誰よりも逞しく生きてる……最高に『強い』魔導師なんだよ!」
杖の先端に、目が眩むほどの純白の光が収束していきます。
それはドリルではなく、深淵を隅々まで照らし出す、一点の曇りもない「光」の奔流。
「お前が見せた過去の全部を、俺が全肯定してやる。――見とけ、これがエイミー・レインの本気だ!!」
大介が杖を振り下ろすと同時に、極太の光線が放たれました。
「全肯定光線!!」
ドォォォォォォォォン!!
第十七層の闇を昼間のように塗り替える光の柱。
エイミーを縛っていた父の罵倒も、兄たちの冷笑も、無力な母の涙も、その圧倒的な光に飲み込まれ、粒子となって消えていきます。
「(エイミー……見てるか。お前が守りたかったものは、もうお前自身の中にあるんだぜ)」
光線はレムナント・イリュージョンの核を正確に貫き、幽霊は悲鳴を上げる暇もなく、浄化という名の物理的な消滅を遂げました。
静寂が戻った広間。
大介は肩で息をしながら、少しだけ熱を持った杖を見つめました。
体の芯に残っていた「幼いエイミー」の震えは、いつの間にか消え、代わりに温かな魔力の鼓動が、大介の意思に応えるように力強く波打っています。
数時間後。新宿ギルドのカウンター。
北川さやかは、呆然とした顔で大介の手元にある「討伐証明の核」と、Bランク合格証を見比べていました。
「……十七層の変異種を、光魔法の一撃で消滅させたって……? エイミーさん、貴女、いつの間に聖属性なんて……」
「必要なら何だって使うわ。……だって私は全属性使いですもの」
大介(エイミー体)は、不敵な笑みを浮かべて合格証をひったくると、そのままギルドを後にしました。
二人の想いは、入れ替わった体を通じて深く重なり合いました。
過去という鎖を断ち切ったエイミー・レインは、今、真の意味で「自由」な翼を手に入れたのです。




