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第92話:男の城、一括払い

数日後。入れ替わりの周期が明け、大介はようやく自分の、慣れ親しんだ「分厚い胸板」と「太い腕」を取り戻しました。


「……ふぅ。やっぱり自分の体は落ち着くな」


大介は、エイミー(中身は大介)が新宿ダンジョンや杖テストの高額依頼で稼ぎ出し、リディア・トレードの口座に叩き込んだ通帳の数字を改めて確認しました。


221,450,000円。かつてニート同然だった男が手にするには、あまりにも現実味のない桁数です。


「よし、やるか」


大介はボロアパートの大家、田中さんを呼び出しました。


大家の田中さんは、これまで「家賃を待ってくれ」と頭を下げていたはずの大介が、妙にピシッとした顔つきで現れたことに首を傾げていました。


「大家さん。単刀直入に言います。――このアパート、土地ごと俺に売ってください」


「は? 売る? 大介君、冗談はやめてくれ。ここはもう、不動産としての価値なんてないんだよ」


田中さんは力なく笑い、寂れた廊下の先を見つめました。


かつてこの付近にダンジョンが出現し、モンスターの被害や不穏な噂が広まってからというもの、住人は次々と去っていきました。


今や他の部屋はすべて無人の空き室で、残っているのは大介一人だけ。維持費ばかりがかさむ負債物件となっていました。


「……まさか、また家賃の相談じゃ――」


「二億、キャッシュで払います」


大介は通帳を開き、その圧倒的な「数字」を大家の目の前に突きつけました。


田中さんの目が、豆電球のように見開かれます。


「に、二億……!? 本気か、大介君! 建物どころか、土地代を合わせてもお釣りがくるぞ!」


「本気です。ここは俺にとって、譲れない理由がある場所なんです。土地の権利も、この建物の所有権も、全部俺が買い取ります」


ここにはエイミーとの繋がりである「交差ダンジョン」の入り口がある。借家のままでは、大家の気が変わって「取り壊す」と言い出されたら、二人の絆は物理的に消滅してしまう。それを防ぐには、法的にこの場所を完全に自分たちの支配下に置くしかありません。


「……わ、わかった。そこまで言うなら売るよ。正直、呪われた場所だと思って手放す機会を探していたんだ。大介君、君なら……ここをまた、意味のある場所にしてくれるかもしれないな」


田中さんは震える手で、大切に保管していた譲渡の書類を取り出しました。


数時間後。大介は、かつて自分が借りていた「ボロアパート」の全権を握りしめ、空を見上げました。


「これで……ここはもう、誰にも邪魔されない『俺たちの城』だ」



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