第88話:新宿の破壊姫と、十六層の「重み」
エイミーがリディア側での「男好き誤解騒動」という大惨事を報告し終えた後、今度はエイミーの体で新宿へ行っていた大介が、手元のガレットを飲み込んで口を開きました。
「……よし、次は俺の番だな。お前がリディアで俺の評判を粉砕してた頃、俺も新宿でお前の体のポテンシャルを『最大限』に引き出してやったぞ。二億一千万ほど稼いでおいた」
エイミーはカップを持つ手を止め、驚きで目を見開きました。
「いち、二億一千万……!? 大介さん、私の体で一体何をしたらそんな金額になるんですか?」
「大手魔道具メーカーの杖の限界テストを引き受けたんです。アーク・マジック社っていうところが『絶対に壊れない』って豪語する杖を五本用意しててな。一本壊すごとに三千万の報酬って契約だったんだ」
「……それで、まさか」
「ああ。お前の膨大な魔力を『質量』として杖に叩き込んで、五本とも粉々に粉砕してやったせわ。開発主任が足元に縋り付いて泣きながら止めてきたけど、『契約は最後まで遂行するのが魔法使いの流儀です』って言って、最後の一本までキッチリ壊しておいた」
「大介さん……! 相手は泣いていたのでしょう? 私のイメージが、新宿では完全に『冷酷な破壊の鬼』になっているじゃないですか!」
エイミーは頭を抱えつつも、リディア・トレードの運転資金が増えたことには否定できない喜びを感じていました。
「それから、十六層の攻略だ。カイトたちのパーティーに混ざって、白銀のトカゲ共を殲滅してきた。お前の魔力貯蔵量は本当に凄い。魔法をドバドバ出しても全然息切れしねえんだな」
「それは、私が日頃から鍛錬しているからです。……でも、ただ無双しただけではないのでしょう?」
大介は少し真面目な顔になり、十六層で亡くなった前の魔法使いの話と、格闘家のマイクとのやり取りを語りました。
「マイクが言ってたんだ。魔法使いがいない俺たちは『死体予備軍』だってな。……お前の体を借りて戦って、改めて分かった。魔法使いがいるかいないかで、パーティーの運命が丸ごとひっくり返るんだ。……エイミー、お前の背負ってる看板は、俺が思ってたよりずっと重いんだ」
大介の言葉に、エイミーは少しだけ表情を和らげました。自分の魔法が誰かの命を救い、そして大介がそれを理解してくれたことが、誇らしかったのです。
「……そうなんですね。リディアでは平凡でも、地球ではそれだけ役立てるのは嬉しいです。大介さんがそれを証明してくれたのなら、削岩機……いえ、ドリル魔女と呼ばれても、少しは我慢します」
「あ、でもマイクの筋肉は良かったぞ! 『筋肉は素晴らしいから自信を持て』って、お前らしいフォローも入れておいたからな!」
「余計なことを……! 筋肉への食いつきは大介さんの趣味でしょう! 結局、私の体が変な目で見られるのは変わりません!」
バターの香りと大介の笑い声。
エイミーは溜息をつきながらも、大介が自分の体を守り抜き、そして莫大な報酬と「信頼」を持ち帰ってきたことに、深い安堵を感じていました。




