第87話:筋肉の残り香と、衝撃の報告会(後編)
大介が頭を抱えて唸る中、エイミーは冷めた紅茶を一口飲み、どこか遠くを見るような目で続けました。
「……でも、大介さん。リリーさんは本当にいい子なんです。真っ直ぐに大介さんの……いえ、今の貴方の肉体を見て、その内側にある強さを信じてくれました。人族同士、お似合いすぎて……私、自分がひどく場違いな存在に思えてしまったんです」
「エイミー……」
「エルフの時間は長すぎて、貴方の人生なんて一瞬です。だから、そんな一瞬の時間を私との『入れ替わり』なんていう面倒事に費やすより、彼女のような人と幸せになった方が……なんて、二日酔いの頭で柄にもないことを考えてしまいました」
エイミーは自嘲気味に笑い、それから大介の顔を真っ直ぐに見つめました。
「でも、気づいたんです。大介さんのその素晴らしい筋肉を一番近くで愛でて、その制御を誰よりも理解しているのは私なんだって。……だから、彼女には悪いですが、もう少しだけ私に付き合ってもらいます」
その言葉は、エイミーなりの不器用な「独占宣言」でもありました。
しかし、しんみりした空気は、大介の現実的な恐怖によってすぐにぶち壊されます。
「……感動的な話のところ悪いんだけどさ。お前がその『男好き設定』をぶち上げたせいで、
今後の冒険者ライフ、終わってないか?」
「あら、そうでしょうか? リリーさんは『応援する』と言ってくれましたし、ガルガンさんは『俺の背中はお前に預けた(意味深)』と力強く頷いていました。これこそ、鋼の絆……パーティーの理想形だと思いませんか?」
「思えるか! 次に俺がギルドに行ったら、あいつら絶対に変な目で見てくるだろ!
特にそのガルガンの熱い視線に耐えられる自信がねえよ!」
「ふふ、大丈夫です。大介さんなら、その強靭な肉体と精神で乗り越えられます。それに……」
エイミーは、悪戯っぽく微笑んでガレットの最後の一片を口に運びました。
「リリーさんが、『大介くんのために、ガルガンさんとの愛のキューピッドになる!』って息巻いていましたから。近いうちに、この家に遊びに来るかもしれませんね。……ガルガンさんを連れて」
「おい、冗談だろ!? ここ、お前の家だぞ!?」
「その時は、大介さんが地下室から『彼』を優しく迎え入れてあげてください。……私、お茶のおかわりを淹れておきますね?」
「エイミィィィィ!!」
大介の叫びが部屋に響き渡り、エイミーはそれを心地よさそうに聞きながら、優雅にカップを置きました。
嫉妬も、寿命への不安も、大介のこの情けない叫びを聞いている間だけは、どこか遠い出来事のように感じられるのでした。




