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第86話:筋肉の残り香と、衝撃の報告会(前編)


 四日間の入れ替わりが解け、エイミーは自分の体へと戻りました。  


場所はリディアにある拠点の地下室。大介もこちら側の地下室へ到着し、二人は地上階にあるエイミーの自室で向き合ってお茶を飲んでいます。


 テーブルの上には、大介が新宿から持ってきた高級な「アールグレイ」と、老舗の「ガレット・デ・ロワ」が並んでいました。


「……ふぅ。やっぱり自分の体は落ち着きます。大介さんのあの重戦車みたいな体、動くたびに周りの物を壊しそうで肩が凝って仕方なかったです」


 エイミーはカップを運びますが、その仕草の端々に、無意識に**大介の癖である「親指で鼻の頭をクイッとする」**動きが混じっています。


「お前こそ、俺の体で何してたんだよ。……いや、その前に。なんか俺の体がやたら酒臭いし、肩に覚えのない痣があるんだけど、これ何だよ」


「……あ、それはその……。大介さんの体で助けた『鋼鉄の牙』のリーダー、ガルガンさんに抱きしめられた時の名残、です」



エイミーは、あの夜の「男好き」という嘘をどう説明すべきか悩み、パイ生地の端をつつきながら視線を落としました。


「……遠征先で、リリーさんという魔法使いに告白されたんです。

彼女はとても明るくて、太陽みたいに眩しい人で……何より、大介さんと同じ人族でした」


 エイミーはカップを見つめ、心の中にあった小さな棘を吐き出すように続けます。


「エルフの私には、大介さんと同じ速さで時を刻むことはできません。

彼女は大介さんと一緒に歩んで、一緒に老いていける。それが、少しだけ……羨ましくなったんです。だから、あんな突拍子もない嘘で彼女を遠ざけてしまいました」


「……寿命か。まあ、俺はそんなの気にしたことないけど。で、その嘘って?」


 大介の問いに、エイミーはティーカップで顔を半分隠しながら、小さな声で答えました。


「……大介さんは、男(筋肉)が好きだと。……そう言わないと、彼女、納得してくれなかったんです」


「はぁ!?」


 大介が椅子から転げ落ちそうになります。


「さらに、リリーさんが気を利かせて、『大介くんはガルガンさんが好きなんだね』って盛大に誤解して……。結果、ガルガンさんもその気になって、昨夜は熱い抱擁を交わす羽目になったんです。……おめでとうございます、大介さん」


「おめでたくねえよ! 冗談だろ!?おっさんに抱きしめられたのをどう喜べばいいんだよ!

それに筋肉好きはおまえの性癖だろうが」


「リリーさんは『二人の愛を応援する』って張り切っていました。

……多分、次にお会いした時は、二人っきりで野営するセットとか用意されていると思います」


「笑い事じゃねえよ! こっちの世界で街に出るのが怖すぎるだろ!」


 バターの香りと大介の絶叫。  


エイミーは、と嫉妬で曇っていた心が、

大介の情けない反応を見るうちに少しずつ晴れていくのを感じていました。

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