第79話:新宿ダンジョン第十六層リベンジ編:中編
【属性の妙技と、散った仲間の影】
十六層を奥へ進むにつれ、空気はキンと冷え、視界には白銀の鱗を持つトカゲたちの気配が濃くなっていきます。 大介(エイミー体)は、後方から優雅に歩を進めながら、前方の三人の動きを眺めていました。道中遭遇するトカゲを、大介は『アイス・バインド』で面白いくらい確実に足止めし、カイトたちに「継ぎ目」を叩かせていきます。
「(いやぁ、やっぱりエイミーの魔力貯蔵量はとんでもねえな。自分の体だと『息切れ』を気にしなきゃいけないけど、この体なら魔法をドバドバ出しても平気だぜ。……よし、そろそろ次のステップといこうか!)」
ふと、一戦終えた後の休憩中、大介は隅で自分の拳をじっと見つめる格闘家マイクに気づきました。
「どうしたの? 筋肉自慢の格闘家さんが、そんなにお通夜みたいな顔をして」
大介(エイミー体)が首をかしげて声をかけると、マイクは自嘲気味に笑って肩を落としました。 「……エイミー様。さっきの戦いを見て、改めて思い知らされたんですよ。あんたが魔法で動きを封じてくれなきゃ、俺の拳はただ自分の腕をぶっ壊すだけの『ガラクタ』だってな」
「あら、殊勝な心がけですわね。でも、それは貴様が弱いからではなく、単に相性が悪いだけよ」
「……実は、このパーティにいた前の魔法使いは、一ヶ月前にここで死んだんだ。トカゲの反射に巻き込まれてな」
マイクの言葉に、大介の思考がピタリと止まりました。
「そいつがいなくなってから、俺たちは一歩も前に進めなくなった。もし今回、あんたが来てくれなかったら……俺は今頃、意地になってあの鱗を殴り続けて、今度こそ再起不能になってたはずだ。……魔法使いがいない俺たちは、ただの死体予備軍だったんですよ」
【覚悟の重みと、お嬢様の仮面】
「(……前の魔法使いが、亡くなっている?)」
大介は、改めてエイミーの白く華奢な指先を見つめました。 自分がリディアで戦っている時、そしてこの新宿で「無双」を楽しんでいる時、常に隣にはエイミーという最強の相棒がいました。入れ替わりという奇妙な状況を「便利で面白いギミック」として楽天的に捉えていましたが、この世界において、魔法使いがいないことがどれほどの絶望を意味するのか――その現実に、胸の奥が少しだけ冷えるのを感じました。
「(……そうか。もしエイミーがいなかったら、俺もあの時、マイクが言う『前の誰か』みたいに、あっけなく消えてたのかもしれないんだな)」
一瞬だけ沈んだ空気を振り払うように、大介はエイミーの体で不敵な笑みを浮かべました。
「……そう。なら、なおさら死なないようにしなさい」
大介(エイミー体)は、冷徹な令嬢の仮面を被り直し、優雅に立ち上がりました。
「魔法使いが貴重だというのなら、私が貴様らを生かして連れ帰ることに、十二分な価値があるということだわ。……行くわよ。貴様らの亡くなった仲間の分まで、その目に焼き付けなさい。本物の魔導が、戦場をどうひっくり返すのかをね!」
「……っ、ありがとうございます、エイミー様!」
マイクの目に、確かな闘志が戻ります。大介は、お嬢様の凛とした表情の下で、「(エイミー……お前の体、思ってたよりずっと『重い』看板を背負ってるんだな。よし、こいつら全員、絶対無傷で帰してやるぜ!)」と、より一層気合を入れ直しました。
「……あ、でもマイク。その筋肉は素晴らしいから、自信を持っていいわよ。私、そういう逞しいのは嫌いじゃありません!ナイスバルク!」
「えっ……あ、ありがとうございます?」
突然の筋肉への食いつきに戸惑うマイクを余所に、大介(エイミー体)は鼻歌混じりに最奥へと歩き出しました。




