第78話:新宿ダンジョン第十六層リベンジ編:前編
【指名依頼と、魔法使い不在のパーティ】
新宿ギルドのロビー。大介(中身:エイミー)は、ギルド職員の北川さやかに呼び出されていた。 今回届いたのは、異例の「名指し」での護衛兼・探索指導依頼だ。
「エイミー様、第十六層への同行依頼です。魔法使いの欠員が出た駆け出しのBランクパーティが、指導を仰ぎたいと」 「ふん、私を指名するなんて、身の程知らずな雑魚もいたものね」
大介(中身:エイミー)は銀髪を指先で弄りながら、お嬢様らしい高飛車な笑みを浮かべた。 現れたのは、Bランクに上がったばかりの三人組『ブレイズ・アロー』。リーダーで剣士のカイト、弓使いのサラ、そして筋骨隆々の格闘家マイクだ。彼ら物理特化パーティにとって、反射鱗を持つ「白銀トカゲ」が跋扈する十六層は、まさに天敵の巣窟だった。
「エイミー様! 俺たちの力不足で、十六層のトカゲに鱗一枚傷つけられなくて……。どうか、ご指南をお願いします!」 カイトが深々と頭を下げる。マイクは大介(エイミー体)をじろじろと見ながら、半信半疑の様子で呟いた。 「……こんなお嬢ちゃんに魔法の反射が攻略できんのか? 俺の拳ですら跳ね返されたんだぜ」
「格闘家さん。貴様のその丸太のような腕は、脳みそまで筋肉でできているのかしら? ……ついてきなさい。十六層の『歩き方』を教えてあげるわ」
【十六層の洗礼と、氷の足止め】
新宿ダンジョン第十六層。周囲は白銀の鱗を持つ魔獣『白銀トカゲ』の巣窟だ。
「いたぞ、二匹だ! マイク、抑えろ!」 カイトの号令でマイクが突進し、鱗の並ぶ背中に正拳突きを放つ。だが、衝撃は鏡のような鱗に拡散され、逆に反動でマイクの腕が痺れた。 「くそっ、やっぱり硬え!」
「下がって。……見ていなさい」 大介(中身:エイミー)が静かに前に出る。 以前ここを訪れた際は、力任せに属性魔法を叩き込んで死にかけ、反動で全身ボロボロになった。だが、能天気な大介はそれを「いい勉強になったぜ」程度にしか思っていない。今の彼は、エイミーから教わった「魔力を糸のように束ねる」感覚をノリノリで試していた。
――『アイス・バインド』。
トカゲの足元だけを局所的に凍らせ、地面に縫い止める。反射の特性を持つ鱗には一切触れず、接地面だけを狙い撃つ精密な魔力制御だ。
「そこを狙いなさい。力任せに叩くのは素人のすることよ。魔法も物理も、理屈は同じ。……さあ、やってみなさい。足止めは私がしてあげるから、経験を積むのね」
大介は、至極当然のように言い放った。かつて自分が同じ場所でトカゲを力任せに殴って拳を痛めたことなど、まるでおくびにも出さない。
「(あはは、エイミーに教わった通りにやれば、あんなに苦労した相手が止まって見えるぜ! 魔法ってのはホント便利だよなぁ。これなら汗一つかかないで済むし、お嬢様コスプレも捗るってもんだ)」
内心でそんな呑気なことを考えながら、大介(エイミー体)は凛とした表情を崩さない。
「……は、はい! 行くぞ二人とも! エイミー様が作ってくれた隙を逃すな!」
カイトとマイクが、指示通りにトカゲの鱗が重なり合う「継ぎ目」へと攻撃を集中させる。先ほどまで反射鱗に弾かれていた攻撃が、今度は面白いようにトカゲの肉を裂き、骨を砕いた。
「ギ、ギィィ……ッ!」 悲鳴と共に、白銀トカゲが光の粒子となって霧散する。
「……倒せた。俺たちの攻撃が、本当に通ったぞ!」
「フン。当たり前のことを言わないで。……次が来るわよ、三匹同時に。私が飽きる前に、少しは成長して見せなさい」
大介(エイミー体)は、「クリーン」の魔法で返り血を一瞬で消し去り、再び優雅に歩き出した。その余裕たっぷりな姿は、新人Bランクパーティの目には、計り知れない実力を持つ「伝説の魔女」そのものとして映っていた。




