第77話:二日酔いの朝と、届かない「お揃い」の寿命
翌朝。リディアのボロ家のベッドで、エイミーは大介の肉体のまま目を覚ましました。
凄まじい頭の重さと、喉を焼くような不快感。
大介の強靭な肝臓をもってしても、昨夜のガルガンによる「友情の杯(という名の猛毒)」の余波は、肉体に確かなダメージを残していました。
「ううぅ……。大介さんのこの体、昨日から何を摂取させられているんですの……。脂っこい干し肉に、度の強い安酒、そしてガルガンさんの筋肉臭……地獄ですわ」
エイミーは、大介の太い腕で自分の顔を覆いました。
入れ替わりの最大の欠点――一度発動すれば、四日目まで自分の意思では決して解除できないこと。
つまり、あと三日間。リリーさんの「付き合って!」という言葉を、あんなデタラメ(男好き)で回避してしまったことへの後悔と、ガルガンからの「熱い誤解」に、一人で向き合わなければならないのです。
エイミーはふらふらと立ち上がり、姿見の前に立ちました。鏡に映るのは、相変わらず見惚れるほど素晴らしい大介の筋肉。
しかし、その目元には昨夜のリリーさんの弾けるような笑顔が焼き付いています。
「……リリーさん。ずるいなあ」
エイミーは、大介の大きな掌をじっと見つめました。
「彼女は、大介さんと同じ人族。……寿命という、残酷な壁がないんですもの」
エルフの自分にとって、数十年という月日は瞬きのようなもの。
もし大介と「恋愛」という道を選んだとしても、彼が老いて命を終えるとき、自分はまだ今の若々しい姿のまま、気の遠くなるような残りの時間を過ごすことになる。
「リリーさんだったら。大介さんと一緒に年を重ねて、一緒に歩んでいけるのに。……私が彼女だったら、あんな風に真っ直ぐ『好き』なんて言えたのかしら」
理想的な美しさと健康美、そして大介と同じ「刻」を刻める資格。
リリーへの嫉妬が、二日酔いの頭痛と共にエイミーの胸をチクリと刺します。
「……何、しんみりしていますの、私は! 私は筋肉フェチとして、彼のこの彫刻のような肉体美を護る義務があるのですわ!」
エイミーは、ベッドの横に置いてあった、大介が新宿から持たせてくれたゼリー飲料を啜りました。
「あんな野蛮で、無神経で、デリカシーの欠片もない男……。私がいなければ、今頃リリーさんに押し切られて、骨抜きにされていたに決まっていますわ。そうよ、私は彼を保護しているだけ。……断じて、その、羨ましいなんて思っていません!」
誰に聞かせるわけでもない強気な宣言。
しかし、鏡の中の巨漢(大介)は、どこか寂しげな、恋に悩む乙女のような複雑な表情で自分を見つめ返していました。
「もうやめよう。いくら考えても私はわたしだ」
「……さて。あと三日。大介さんの名誉(?)を守りつつ、ガルガンさんの『魔の手』からこの体を死守しなければ……。修行より、ずっと過酷な三日間になりそうですわね……」
大介(中身:エイミー)の孤独な朝。
それは、寿命の違いに溜息をつきつつも、どこか大介への独占欲を隠しきれない、切なくて騒がしい幕開けでした。




