第75話:月下の告白と、筋肉(オトコ)を愛でる乙女の悲鳴
Bランク昇格を祝う祝宴の夜。リディアの酒場『跳ね馬亭』は、かつてない熱気に包まれていた。
大介(中身:エイミー)は、次々と冒険者たちに囲まれ、逞しい腕を叩かれていた。
「おい大介! その上腕二頭筋、どうやったらそんなに育つんだ!?」
「いいぞ大介! まさに理想の漢だぜ!」
エイミーは、大介の顔で相好を崩した。
「(ああ……やはり、大介さんの肉体はどの世界でも正義なのですわね。褒められるたびに私まで鼻が高いですわ……!)」
自分の愛する「筋肉」が他人に評価される喜び。エイミーはすっかりご機嫌だった。
そんな中、パーティーのムードメーカー、リリーが頬を赤らめて大介(中身:エイミー)の腕を引いた。
「ねえ、大介くん。……ちょっと外で二人だけで話さない?」
【理想の女性、そして「男好き」の告白】
月明かりに照らされたテラス。夜風に揺れるリリーのポニーテールと、健康的な笑顔。エイミーにとって、彼女はまさに「理想の女性」そのものだった。
しかし、リリーが発した言葉は、エイミーの予想を遥かに超えていた。
「私、大介くんが好きだよ! ……付き合ってほしいな!」
「(……ピギャアアアアアアアア!!)」
エイミーの脳内で、全系統の魔法がショートした。
理想の女性からの告白。しかし、今の自分は大介の肉体を借りているだけの「中身お嬢様」だ。ここでOKすれば、リリーと大介が結ばれてしまう。それはそれで耐えられない。
「あ、あの! リリーさん! ありがとうございます。……でも、無理ですわ! いえ、無理なんです!」
「えっ……どうして? 好きな人、いるの?」
リリーの潤んだ瞳。エイミーは混乱の極みで、自分でも制御不能な「本音」を口走った。
「そ、そうですわ! 私は……俺は、男(筋肉)が好きなのです!!」
「…………えっ?」
「そうなのです! 俺がこの肉体を極めているのは、強い男に惹かれるから、そして強き男を愛でるため! つまり、俺が求めているのはリリーさんのような可愛い女性ではなく、もっと……こう、猛々しい男なんですのよ!」
大介の野太い声で放たれた、衝撃の「カミングアウト」。
リリーは数秒間フリーズし、それから何かを悟ったように、酒場の中で豪快に笑っているリーダーのガルガンの方へ視線を向けた。
【加速する誤解:ターゲットはガルガン!?】
「……そっか。そうだったんだね、大介くん」
リリーの瞳から涙が消え、代わりに「同志」を見るような熱い光が宿った。
「気づかなくてごめんね。いつもガルガンの指示を熱心に聞いてたのも、ピンチの時に真っ先にガルガンの方を見てたのも……そういうことだったんだ」
「えっ、あ、いや、それは戦術的な確認でして――」
「隠さなくていいよ! 確かにガルガンって、ガサツだけど最高に男らしいもんね! 筋肉も大介くんに負けないくらい厚いし……。わかった! 私、応援するよ、二人のこと!」
「違っ……! そういう意味じゃありませんわ!! 私は大介さんの筋肉を愛でているだけであって、ガルガンさんの筋肉には興味が――」
「恥ずかしがらないで! 恋はいつだって暴走しちゃうものだもんね! よーし、ガルガンにたくさんお酒飲ませて、今夜は二人きりにしちゃう作戦、立てようか!」
「やめてくださいまし!! 洒落になりませんわ!!」
大介の巨体で、乙女のように内股になりながら必死に手を振るエイミー。
しかし、明るく前向きなリリーは「大介くん、顔真っ赤! 恋だね!」と上機嫌で酒場に戻り、「ガルガーン! 大介くんが話したいことあるってー!」と叫び始めた。
「(大介さぁぁぁん!! 助けてください! あなたの純潔(?)が、私のせいでガルガンさんに捧げられようとしていますわぁぁ!!)」
月夜の下、大介の屈強な肉体を纏ったエイミーの悲鳴が、新宿まで届きそうな勢いで響き渡った。




