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第74話 魔境のBランク遠征編:後編

魔境のBランク遠征編:後編(改訂版)

【覚醒の拳と、混ざり合う魂】

 キマイラ・エルダーの毒針が、大介(中身:エイミー)の右肩を深く貫いた。Bランク魔獣の猛毒が、大介の強靭な血管を駆け巡り、激痛が脳を焼く。

「大介くん! やだ、どうしよう、私のせいで……!」

 駆け寄るリリーの瞳に涙が浮かぶ。その涙を見た瞬間、エイミーの中で「何か」が弾けた。

「(……私としたことが。大介さんのこの理想的な肉体を、傷つけさせてしまうなんて……!)」

 激痛すらも、自身の不甲斐なさへの怒りが上回る。エイミーは、大介から教わった魔力操作を応用した。魔力を「糸」のように束ね、毒に侵された部位の血流を魔力で強引に遮断。さらに、大介の筋肉そのものを魔力で「超硬質化」させ、毒針を筋肉の収縮だけでへし折った。

「ガ、ガルガンさん……リリーさんを、下げて……!」

「おい大介、その肩でまだ戦う気か!?」

 ガルガンの驚愕を余所に、大介(中身:エイミー)は立ち上がる。

 その立ち姿は、もはや野性味溢れる格闘家のものではなかった。泥に汚れ、血を流しながらも、凛として揺るがない。

 「――下等生物が。わたくしの『宝物』に、よくも触れてくれましたわね」

 大介の声で放たれた、氷のように冷たい「お嬢様」のトーン。

 エイミーは大介の脚力を最大まで解放した。大地を噛む。反発力を腰へ。腰から拳へ。そこへさらに、エイミー本来の得意魔法――「ドリル」の回転魔力を、大介の拳の旋回に上乗せした。

 ――『螺旋・正拳突き』。

 「ギィィィィィィン!!」と杖で放つ時以上の、暴力的な破壊音が森に響く。

 大介の拳はキマイラの胸部を文字通り「穿ち」、背中まで突き抜けた。Bランクの王者は、心臓を粉砕され、絶叫すら上げられずに物言わぬ肉塊へと変わった。

【遠征の終わり、残された想い】

 戦闘終了後。リリーの懸命な解毒魔法と、大介の肉体の驚異的な回復力により、毒は完全に無力化された。

「よかったぁ……。本当に、本当によかった……大介くん、ありがとう……!」

 リリーが大介(中身:エイミー)の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。

 エイミーは、その柔らかい感触とリリーの香りに再び鼻血を出しそうになりながらも、大介の太い手で、そっとリリーの背中を叩いた。

「(……ああ。大介さんのこの手で、彼女を守れた。この感触……これこそが、私が求めていた『力』……)」

 その様子を少し離れて見ていたガルガンが、溜息をつきながら近づいてきた。

「……見事だった。正直、お前が何者なのか、俺にはもうサッパリ分からん。だが……」

 ガルガンは、大介(中身:エイミー)の肩をポンと叩いた。

「お前が誰であれ、仲間を守るために命を張れる『最高の前衛』だってことは疑いようがねえ。Bランク推薦、確実に出しといてやるよ。……それと」

「……はい?」

「リリーを抱き締めてる時の顔、完全に『獲物を狙うオヤジ』のそれだったぞ。お前、本当にBランクの昇格が目的なのか?」

「えっ!? あ、あわわわ! ち、違いますわ! これは純粋な愛護精神でして!!」

 エイミー(大介体)は必死に否定したが、リリーは顔を上げると、真っ直ぐにエイミー(大介体)を見つめた。その瞳には、感謝とは異なる、熱い感情が宿っていた。

「大介くん……。あのね、私……」

 リリーの言葉は、その場では途切れた。だが、その想いは、エイミー(大介体)の心に深く刻み込まれた。

【帰還、そして日常へ】

 数日後。アパートに戻ったエイミーは、自分の体に戻ってからも、あの時のリリーの体温と、告白寸前の眼差しが忘れられずにいた。

「……ま、まさか、リリーさんがわたくしに、あんなにも……。は、はしたない! でも、素敵でしたわ……!」

 エイミーは自分の細い腕を見つめ、大介から教わった「螺旋・正拳突き」を空中で試し、その度に顔を赤くした。

「(大介さんの体で、リリーさんを守ったあの感覚……。もう一度、リリーさんの、あの笑顔を守りたい……!)」

 エイミーの胸には、リリーへの特別な感情と、さらなる高みを目指す静かな闘志が燃え始めていた。

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