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第72話 魔境のBランク遠征編:前編

魔境

【鋼鉄の肉体と、輝きの魔導師リリー】

 リディアの冒険者ギルド。その一角で、一際目立つ巨漢がいた。

 大介(中身:エイミー)である。彼女は今、大介の盛り上がった大胸筋をシャツの上からそっと撫で、その「理想的な弾力」にうっとりとしていた。

「(……ああ、やはり素晴らしい。この大胸筋、まるでリディアの最高級のクッションのよう……)」

「おい、大介! 自分の腕を見てニヤニヤしてねえで、そろそろ出発だぞ!」

 豪快な声と共に背中を叩いたのは、Cランクパーティー『鋼鉄の牙』のリーダー、重戦士ガルガンだ。

「あ、はい! 失礼いたしました、ガルガンさん」

「今日はお前をBランク昇格試験へ推薦するために、特別に『魔境・静寂の森』のBランクエリアまで足を伸ばす。……紹介しよう、今回の臨時メンツだ。ほら、リリー!」

 ガルガンの後ろから、眩いばかりの笑顔を振りまきながら一人の女性が飛び出してきた。

 人族の魔法使い、リリー。ポニーテールにまとめた黄金色の髪が弾み、健康的な小麦色の肌が太陽を反射している。

「お待たせー! 私が魔導師のリリーだよ! よろしくね、ガルガンに大介くん!」

 リリーは大介(中身:エイミー)の前に立つと、物怖じせずにその太い腕を「わぁ、すごーい!」と触ってきた。エイミー(大介体)の脳内に衝撃が走る。

「(なっ……なんて可愛らしくて、快活な方かしら! この屈託のない笑顔、程よく引き締まった健康美……まさに私にとって理想の女性(女性)ですわ!)」

「大介くん、顔赤いよ? 暑い? 魔法で風送ってあげようか?」

「あ、いえ! 大丈夫です、リリーさん! さあ、行きましょう!」

 大介(中身:エイミー)は、心拍数が上がるのを必死に抑えながら歩き出した。憧れの「筋肉質な肉体(大介)」で、理想の「太陽のような女性リリー」を守る。エイミーにとって、これは過酷な遠征ではなく、もはや夢のデートコースに等しかった。

【Bランクの洗礼】

 一行が『静寂の森』の深部、Bランク指定エリアに足を踏み入れた途端、空気の重さが変わった。

 草むらをかき分けて現れたのは、Bランク指定の猛獣、**『ブラッド・ベア』**のつがいだ。

「出たな! リリー、援護しろ! 大介、お前は右の――」

「任せて! 景気づけにドカンと行くよ! 『フレイム・バースト』!」

 リリーが杖を掲げると、明るい声と共に猛烈な火柱が熊を包み込む。ムードメーカーらしい、派手で高火力な魔法だ。だが、ブラッド・ベアは焦げた体毛を振り払い、咆哮を上げて突進してきた。

「っ、嘘!? 私の火力が通らない……!?」

「リリーさん、危ない!」

 大介(中身:エイミー)が地を蹴った。

 大介から教わった「母指球で地面を噛み、力を波のように伝える」踏み込み。巨体を感じさせない鋭い加速で、リリーと熊の間に割り込む。

「(リリーさんのような素敵な方に、怪我をさせるわけにはいきませんわ!)」

 エイミーは大介の丸太のような腕を振り抜き、熊の眉間目がけて一直線の正拳突きを叩き込んだ。

 ――ドォォォォン!!

 魔法耐性を誇るブラッド・ベアの頭蓋が、純粋な物理衝撃によって粉砕される。一撃。

「……えええっ!? 何今のパンチ! すごーい! 筋肉最高じゃん!」

 リリーが目を輝かせて駆け寄ってくる。

「大介くん、今の見た!? 私の魔法で怯んだ隙を逃さないなんて、私たち相性バッチリだね!」

「リリーさん……。は、はい! 最高の連携でしたわ……あ、俺!」

「あはは! 大介くん、話し方可愛いね! よーし、この調子でどんどん行こう!」

 リリーの明るさに当てられ、エイミー(大介体)のテンションは最高潮に。しかし、その背後でリーダーのガルガンだけが、「あいつ、あんなにオカマっぽかったか……?」と首を傾げていた。

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