第197話:等身大の誓い
嵐は去った。
歪んでいた次元の亀裂は完全に修復され、双葉荘を飲み込もうとしていた原生林も、幻影のように消え去った。
新宿の空には、何事もなかったかのように夜明け前の紺碧が広がっている。
大介は、ボロボロになった「剛力甲・不動 改」の装甲をパージし、地面に膝をついた。全身を襲う激痛と疲労。
だが、その顔には憑き物が落ちたような清々しさがあった。
「……ダイスケ。本当、馬鹿なんだから」
駆け寄ってきたリリーが、大介の顔を見るなり涙を拭った。
その後ろには、安堵の表情を浮かべるセレナと、豪快に笑いながらも目元を赤くしているガルガンの姿がある。
「ポータルは完全に安定した。お前があのエネルギーを注ぎ込んだおかげで、以前よりも強固な道になったぜ。……お前、本当に自分の『若さ』を、俺たちの帰る道に変えちまったんだな」
「言っただろ、長期的投資だって。……それより、お前ら。一度リディアに帰って、あっちの混乱を収めてこい。リディアトレードの役員だろ? 仕事をしろ、仕事を」
大介の強がりに、三人は顔を見合わせた。
「ええ。すぐに戻ってくるわ。……あなたのシワが増える前にね」
セレナが優しく微笑み、三人は再会を約束して、安定を取り戻したポータルの光の中へと消えていった。
静かになった双葉荘の庭。
そこには、立ち尽くしたままの大介と、彼をじっと見つめるエイミーだけが残されていた。
大介はよろよろと立ち上がり、エイミーの前に歩み寄った。
かつての「強引な社長」の勢いはない。ただの、少し疲れ果てた男がそこにいた。
「エイミー。……ごめんな。俺、お前のこと信じてなかったわけじゃないんだ。ただ、怖かったんだよ。お前を置いていくのが、死ぬほど怖かった」
「知っています。……大介さんは、優しすぎますから」
エイミーは一歩、大介に近づき、彼の泥のついた手を自分の両手で包み込んだ。
「大介さん。……おじいちゃんになっても、腰が曲がっても、私の隣にいてくれますか? 私が大介さんを看取って、その魂をエルフの誇りにかけて語り継ぐ。……その役目を、私に預けてくださいますか?」
「……ああ。かっこいい最後を迎えられるように、精一杯足掻いてみるよ。シワが増えても、俺の隣にいてくれるか?」
「当たり前ですわ。……私の、誇らしい旦那様」
朝焼けの光が、二人の影を長く伸ばす。
「永遠」を捨て、「今」を積み重ねることを選んだ男と、その一瞬を永遠に変えようと誓った女。
大介は、等身大の自分としてエイミーを強く抱きしめた。
そこにはもう、偽りの仮面も、孤独への焦燥もなかった。




