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第195話:エイミーの叫び、魂の再会


 黄金の光が、大介の網膜を焼き、脳裏の理性を甘く溶かしていく。


 あと数センチ。指先がその「果実」に触れれば、老いも、死の恐怖も、エイミーを遺していく罪悪感も、すべては解決するはずだった。


「――聞こえますか、大介さん!」


 突如、ノイズ混じりの通信機から、エイミーの叫びが特異点の静寂を叩き割った。


それは魔導演算の数値でも、論理的な説得でもない、剥き出しの「心」の震えだった。


「リリーさんから聞きました。……あなたが、自分の時間を巻き戻そうとしていること。私と同じ時間を歩むために、無理な研究をしていたこと……!」


 大介の手が、止まる。


「やめてください! そんなこと、私は一度も望んでいませんわ! 私が愛しているのは、あの日、路地裏で私を見つけてくれた、その手の温もりです。私に仕事の厳しさと喜びを教えてくれた、その情熱です。……老いていくことも、いつか訪れるお別れも、すべてが大介さんという『たった一人の人間』の証ではありませんか!」


 エイミーの声は、涙で何度も詰まっていた。


「若返らなくてもいい……。あなたが、今のあなたでなくなるのが、私は一番怖いのです。私を置いていかないで。……たとえあなたの髪が白くなっても、その足元がおぼつかなくなっても、私があなたの杖になり、あなたの物語を語り継ぐ風になります。だから、お願い……今のままのあなたで、私のところに帰ってきて!」


 その叫びは、大介の中層に澱んでいた「置いていかれる孤独」という呪いを、真っ向から否定した。

 大介は、黄金の光を見つめた。


 これに手を伸ばすことは、エイミーなら一人でも強く生きられるという「信頼」を放棄することだ。


彼女を、自分のエゴで繋ぎ止めておきたいだけの「弱さ」の象徴だ。


「……ああ。そうだな、エイミー」


 大介は、自嘲気味に笑った。


 自分は「仕組み」で運命を支配しようとしていた。


だが、本当の「仕組み」は、もうとっくに完成していたのだ。


自分がいなくなった後の世界を支える仲間、そして、自分との時間を糧に未来へ歩み出す、強い一人の女性。


「俺は……お前を、侮っていたのかもしれねえな」


 大介は黄金の光から、ゆっくりと視線を外した。


 その瞳には、狂気的な執着に代わり、晴れやかな、いつもの「佐藤大介」の光が戻っていた。


「エイミー。今、帰る。……おじさんになった俺を、しっかり支えてもらうからな」


 大介は通信機に向かってそう告げると、目の前の「黄金の果実」へと、若返りのためではなく、別の目的のために、力強く拳を振り上げた。

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