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第184話:ドリルエルフ、経営の頂へ


 リディアトレードの会議室に、張り詰めた空気が流れていた。


対面に座るのは、地球側の提携企業の重役たち。


彼らは、ダンジョンのこともオークションのことも知らない経営家だ。


そのため、大介の隣に座るエイミーを「若くて美しいだけのお飾り」だと侮るような視線を隠そうともしなかった。


「……というわけで、代表。ポータル維持費の分担比率を、我が社側に有利に修正していただきたい。これは、わが国のインフラ提供に対する正当な対価です」


 相手方の理詰めの攻勢。かつての大介なら「まあ、なんとかなるでしょ!」と煙に巻く場面だが、大介は黙ってエイミーを促した。


「……失礼ですが、その『正当な対価』の算出根拠に、リディア側の魔力減衰率は含まれていますの?」


 エイミーが、澄んだ、しかし氷のように冷徹な声で問いかけた。


彼女の指先がタブレットを滑り、複雑な魔導式と経済指標が融合したグラフをプロジェクターに映し出す。


「もしその比率を維持するならば、我が社はリディア側資源供給量を三割減らさざるを得ません。そうなれば、貴社が期待している異世界資源の流入は止まり、株価は……そう、一週間で今の四分の一になります。それが、皆さまの望む『正当な結果』ですか?」


 静まり返る会議室。エイミーの瞳には、かつて路地裏で震えていた「落ちこぼれ」の影など微塵もなかった。


彼女は、大介から叩き込まれた「ビジネスという名の戦い方」を完璧に自分のものにしていた。


 交渉が終わり、相手方が青ざめた顔で退出していく。大介は背もたれに深く寄りかかり、大きく息を吐いた。


「……完璧だったぞ、エイミー。もう俺が口を挟む余地もねえな」


「大介さんの教え方が厳しいからです。……でも、これで少しは、あなたの『副社長』として相応しくなれたかな?」


 エイミーが向けた微笑みは、大介の知る「少女」のものから、組織を統べる「女王」のそれへと脱皮していた。


大介はそれを眩しく思うと同時に、胸の奥を鋭い痛みが突き抜けるのを感じた。


(ああ、そうか……。俺は、自分がいなくなった後、あいつが独りで立てるように鍛えてきたはずだった)


 だが、実際にエイミーが自分を追い越し、一人で高く飛び立とうとする姿を目の当たりにして、大介は初めて自覚したのだ。


 あいつを強くし、自立させるということは、自分という存在が「不要になる日」を早めることと同義だったのだと。


「……大介さん?」


 不意に顔を覗き込んできたエイミーの瞳。

 大介は慌てて「なんでもねえよ、最高にカッコよかったぜ!」と表層の笑みを貼り付けたが、その深層には、置いていかれる者だけが知る、ひりつくような「孤独」が芽生えていた。


 エイミーが経営の頂へと近づくほど、二人の間の時間は残酷にズレていく。


 大介は、自分の愛が導き出した「正しい結果」に、皮肉にも胸を焦がすのだった。

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