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第182話:大介の強引な「終身契約」


 深夜、リディアトレード本社ビルの最深部。


限られた役員のみが入室を許される「秘密区画」に、大介の呼び出しを受けた三人の姿があった。


 セレナ、リリー、そしてガルガン。


「ったく、こんな夜更けに呼び出して何の用だ、ダイスケ。大事な『肉まん』の消化中だぜ」


「私もよ。地球の『あにめーしょん』っていう動画の勉強で忙しいの」


 ガルガンが豪快に椅子を鳴らし、リリーが不機嫌そうに端末を弄る中、セレナだけは黙って大介を見つめていた。


昨夜のエイミーとの会話が、彼女の脳裏に重く残っている。


 大介は、デスクに分厚い契約書を三通並べ、いつもの能天気な笑みを浮かべた。


「悪いな、三人とも。だが、リディアトレードは今、かつてないほど人手が足りねえんだ。というわけで、お前らには今日から正式に、この会社の『終身役員』になってもらう。いいな、拒否権はねえぞ。死ぬまで……いや、死んだ後も働いてもらうからな!」


 大介の言葉は、相変わらず乱暴で強引だった。


だが、セレナはその契約書の「特記事項」に目を落とし、息を呑んだ。


 そこには、莫大な報酬と権限の代わりに、一つの「義務」が記されていた。


 ――『エイミーの身心の安全を、何よりも優先し、永劫にわたって支えること』。


(……やっぱり。あなたは、自分の命が終わった後のことを、もう決めているのね)


 大介がこの三人を選んだのには、明確な理由があった。


 セレナはエイミーと同じ、数百年を生きるエルフ。

ガルガンもまた、人間を遥かに凌ぐ寿命を持つ長命種のドワーフ。


 そしてリリーは、その天才的な魔道知識で、世界の理すら書き換える可能性を持つ魔術師。


 大介は、切実すぎる願いを、強引な社長という化けの皮で包み隠している。


自分が死んだ後、何百年も一人で生きるエイミーが、再びかつての「落ちこぼれ」と呼ばれた孤独な日々に戻らないよう、彼女を生涯……いや、彼女の生涯にわたって支え続ける「家族」を、組織という名の檻で囲い込もうとしているのだ。


「ダイスケ。……あなた、本当に人使いが荒いわね」


 セレナが小さく、溜息混じりに微笑んだ。


「終身契約? おう、望むところだ! 旨い酒と肉まん、それにこの面白い仕事が続くんなら、何百年でも付き合ってやるぜ!」


「……ふん。まあ、この世界の『てくのろじー』の最先端に居続けられるなら、悪くない条件ね」


 ガルガンとリリーも、大介の不器用な「願い」をその肌で感じ取ったのか、文句を言いながらも署名に応じた。


「よし、契約成立だ! お前ら、頼りにしてるぜ」


 大介は快活に笑い、仲間の肩を叩いた。


 だが、三人の署名が刻まれた契約書を金庫に収める大介の手は、わずかに震えていた。


 彼は今、自分の死後もエイミーを守るための「楔」を、歴史に打ち込んだのだ。


 その光景を、モニター越しにエイミーがじっと見つめていることにも気づかずに。

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