第180話:リディアトレード・コネクション
リリーの母親を救うための「オペレーション・エーテル」は、リディアトレードの全リソースを注ぎ込んだ、かつてない規模の極秘プロジェクトへと発展した。
新宿の本社ビルには、リディアの魔導師たちから送られた生体データと、日本最高峰の医療チームが作成したゲノム解析結果が、光ファイバーと魔法の導線を伝って集積されていく。
「ダイスケ、見て。これが新しい魔法回路のプロトタイプよ」
リリーがモニターを指し示す。そこには、地球のナノマシン技術でコーティングされた、リディアの治癒魔石の設計図が浮かんでいた。
「これなら、お母さんの魂の枯渇を物理的に防げるはず。……あなたの会社の資金と、この世界の科学がなかったら、一生辿り着けなかった答えだわ」
大介は、隣で感銘を受けたように頷く医師やエンジニアたちの姿を見て、深く息を吐いた。
かつて、倒産という荒波の中で「守りたいもの」をすべて失った大介にとって、今、目の前にある光景こそが、彼が本当に手に入れたかった「富」の正体だった。
「よし、全員集まってくれ」
大介は、セレナ、リリー、ガルガンの三人、そして元同僚の佐藤たちを役員室に呼び寄せた。
机の上には、日本語とリディア公用語で綴られた三通の厚い書面が置かれている。
「こいつは、ただの雇用契約書じゃねえ。……『リディアトレード終身役員契約書』だ」
ガルガンが豪快に眉を上げた。
「終身だと? 死ぬまで働けってか、ダイスケ。相変わらず人使いが荒いぜ」
「ああ、そうだ。お前らには、リディアの現場も、地球の技術も、そして……俺がいなくなった後のこの会社も、全部背負ってもらう。リリーの母親の件だけじゃない。これから先、二つの世界の間に起きるすべての面倒ごとを、俺たちで片付けていくんだ」
大介は、セレナの目をまっすぐに見つめた。
「セレナ。君にはエイミーの隣で、この会社の『良心』であってほしい。……俺たちが道を間違えそうになった時、エルフの長い時間の中で培ったその知恵で、俺たちを導いてくれ」
セレナは一瞬、驚いたように目を見開いたが、やがて大介の「未練」と「願い」をすべて受け止めるように、優しく微笑んだ。
「……ええ。あなたのその『わがまま』、私が一生……いいえ、百年かけて預かってあげるわ。ダイスケ」
三人は迷うことなく、それぞれの署名を刻んだ。
それは、単なるビジネス上の提携を超え、種族と世界を跨いだ「運命の共同体」が誕生した瞬間だった。
新宿の夜景を背に、大介はエイミーの手を握った。
最強の仲間たちが、組織という強固な鎖で結ばれた。自分がいつか終わりを迎えても、この場所は決して揺るがない。
だが、絆が深まれば深まるほど、大介の胸には一つの重い問いが居座り続けていた。
(救える命があるのは分かった。だが……『寿命』という名の時間は、金で買えるのか?)
【再会と異文化の波】編、完結。
物語は、避けられない時の流れに抗おうとする男の、より深い葛藤へと突き進んでいく。




