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第178話:異文化の波と、交わる絆


 大介とセレナの会話を盗み聞きしてしまった夜から、エイミーの胸には、喜びと悲しみが混ざり合ったような、名付けようのない感情が居座り続けていた。


 しかし、リディアトレードの日常は、そんな感傷を待ってはくれない。


「おい、ダイスケ! この『こんびに』ってのは魔法の宝物庫か!? この、中に肉が入ってる白いふわふわ……肉まんってのか? 悪魔的な旨さじゃねえか!」


 ガルガンが両手に肉まんを抱え、オフィスのエントランスで吠えていた。


彼の横では、リリーが最新のノートPCを睨みつけながら、キーボードを凄まじい速度で叩いている。


「……ガルガン、静かにして。今、この世界の『いんたーねっと』にある魔導理論に似た数式を解析してるんだから。……ねえダイスケ、この『量子計算』って考え方、リディアの多重魔法陣の展開に応用できるわ。これがあれば、ポータルの維持コストを30%は削れる」



「リリー、使いこなすのが早すぎないか、リディアにパソコンはないんだろ?」


「確かにないけど、魔法計算用の演算器は似たような仕組みだから、違和感なく使えてるわ」と意外と似通った点があることを知った。



 大介は、元同僚の佐藤たちがリリーの魔法解説を必死にメモしている姿を見て、満足げに頷いた。


「いいぞ、リリー! その調子で『リディアトレード独自規格』をどんどん作ってくれ。佐藤さん、特許申請の準備、急いでくれよ!」


 大介はいつものように能天気な声を上げながら、各部署を回り、時にガルガンの肩を叩き、時にリリーに新作のスイーツを差し入れる。


 その姿は、一見するとただの活気ある社長だが、エイミーの目には、彼が仲間たち一人ひとりに「自分の代わり」を託しているように見えてならなかった。


「……大介さん。少し、お休みになったらどうですか? 顔色が優れませんわ」


 エイミーが淹れたてのハーブティーを差し出すと、大介は一瞬だけ疲れを見せたが、すぐに笑顔で塗りつぶした。


「ああ、悪いなエイミー。でもよ、今は楽しいんだ。こうしてリディアの仲間と、地球の仲間が混ざり合って、新しいものが生まれていく。……俺が昔、会社を潰した時に見たかった景色が、今ここにあるんだ」


 大介は窓の外、夕暮れに染まる新宿の街を見つめた。


「俺がいなくても、この熱量さえ残れば、この会社は……君の居場所は、ずっと消えない」


 その言葉に、エイミーはティーカップを握る手に力を込めた。


 大介は、自分がいなくなることを「前提」に物語を完成させようとしている。


それが彼なりの、この世界で最も不器用で、最も深い愛の形なのだと、エイミーは理解していた。


「……大介さん。私は、仕組みだけを遺されるのは嫌です。あなたが遺した熱の中に、あなた自身の温もりも、ずっと残っていてほしいんです」


 エイミーの小さな反論に、大介は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく彼女の頭を撫でた。


「……ああ。分かってるよ、エイミー」


 二人のやり取りを遠くから見つめていたセレナは、ふと、リリーが隠し持っていた一通の魔導通信の書簡に目を留めた。


リリーの表情が、先ほどまでの快活さとは裏腹に、急激に青ざめていく。


 リディアから届いた、避けることのできない「現実」の知らせ。


 それは、大介が「金と技術」で挑まなければならない、最初の大きな試練の幕開けだった。

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