第173話:家族の食卓、異世界の秘密
戸田家のリビングには、かつての重苦しい空気は微塵も残っていなかった。
これもリディアトレードとしての大介の活躍が戸田家にも伝わっていたからだ。
リビングには母・美香が腕によりをかけた唐揚げや煮物が並び、大介と誠一郎が並んで酒を酌み交わしている。
「あの……美香さん。この『からあげ』という料理、とても美味しいです。外側はカリッとしていて、中は信じられないほどジューシーで……」
エイミーが小さな口で慎重に唐揚げを頬張り、感動したように瞳を輝かせる。
「あら、嬉しい! エイミーさん、もっとたくさん食べてね。大介から聞いたわよ、向こうの世界では大変な思いをしていたんですって?」
「あ、あの……はい。私はその、魔術の適性が偏っていて、落ちこぼれだと言われ続けていたので……。でも、大介さんが私の価値を見つけてくれたんです」
エイミーは俯き加減に、しかし深層にある「大介への究極の信頼」を込めて言葉を紡いだ。
「へぇー、お兄ちゃんがねぇ。信じらんない、あんな短気で『なんとかなるでしょ!』が口癖の能天気男なのに」
麻衣がビールを飲みながらニヤニヤと茶化す。
大介は顔を赤くして「うるせえ! 勢いがないとやってられねえんだよ!」と返すが、その横顔には、家族に認められた安堵感が滲んでいた。
「聞いたぞ!大介!無職になったと聞いたときは心配で仕方がなかったが、まさか起業するとはな」
「エイミーさん。息子は喧嘩っ早くて危なっかしいが、一度決めたら絶対に諦めない男だ。……どうか、これからもあいつの隣にいてやってくれ。公務員の私には到底理解できない世界だが、お前たちの道は、私たちが全力で応援する」
誠一郎が静かに、だが重みのある声で告げた。
その言葉に、エイミーは胸が熱くなるのを感じた。リディアでは決して得られなかった「親の承認」が、異世界の父から与えられたのだ。
「……はい、誠一郎さん。私も、大介さんと一緒なら、どんな困難も怖くありません」
エイミーは内面に秘めた強い意志を瞳に宿し、真っ直ぐに誠一郎を見つめ返した。
夕食の後、大介の部屋で結衣や麻衣とガールズトーク(?)に花を咲かせたエイミーは、家族の温かさに触れ、かつてない心の安らぎを感じていた。
だが、その平穏な時間の裏で、運命の歯車は静かに、そして残酷に回り始めようとしていた。




