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第172話:家族の理解と和解


 リディアトレードが国家公認の企業となり、大介の名が連日ニュースを賑わせるようになっても、彼にはどうしても向き合わなければならない場所があった。


 実家——。


 そこには「安定こそ正義」と信じ、会社倒産後に探索者となった大介を「博打打ち」と蔑んで勘当同然にした父、誠一郎がいた。


 数ヶ月ぶりに足を踏み入れた実家の玄関。


大介の隣には、慣れた様子で、けれど少し緊張した面持ちのエイミーの姿があった。


「あ、あの……大介さん。お父様、まだ怒っていらっしゃるかな……。もし私のせいでまた喧嘩になったら……」


 エイミーは消え入りそうな声で大介の袖を引く。

内心の不安がそのまま言葉に出てしまっていた。


「大丈夫だって! 親父も俺の活躍を見りゃ、腰抜かして謝ってくるに決まってるだろ! マジで、てめえの息子を舐めんなって感じだよな!」


 大介は努めて明るく、いつもの「喧嘩っ早くて能天気な兄貴」を演じてみせる。


しかしその実、中身は繊細だ。「また否定されたらどうしよう」という不安を隠すために、わざと威勢のいい口調で自分を奮い立たせていた。


「あ、お兄ちゃん! エイミーさんもいらっしゃい!」


 真っ先に飛び出してきたのは、妹の麻衣だった。


すでに双葉荘でエイミーと顔を合わせ、事務の相談に乗っていた彼女は、親友を迎えるような気軽さで二人を招き入れる。


「お兄ちゃん、タイミング完璧。今、お父さんテレビでリディアトレードの特集見て、石みたいに固まってるとこだから」


 麻衣の言葉通り、居間のドアを開けると、そこには古びた新聞を握りしめたまま、大型テレビに映る「官邸での調印式」の映像を凝視する父・誠一郎と、心配そうに手を合わせる母・美香がいた。


「……大介、戻ったか」


 誠一郎の厳格な声に、場が凍りつく。大介は黙って、テーブルに現在のAランクライセンスと、リディアトレードの実績、そして数億円の納税証明書を置いた。


「親父……。俺はもう、露頭に迷ってる無職じゃねえ。自分の力で、この会社を立ち上げたんだ。……安定はしてないかもしれない。けど、これが俺の選んだ、絶対に諦めたくない道なんだ」


 誠一郎は震える手で資料を手に取った。そこには、大介が倒産で傷ついた心を押し殺し、何度失敗しても立ち上がる不屈の精神で掴み取った証が記されていた。


「……息子が……これほどまでに稼ぎ、これほど多くの元同僚を救っていたというのか」


 誠一郎の肩から、力が抜けた。公務員として「普通」を求めてきた彼にとって、大介の成し遂げたことは想像を絶していた。だが、息子が誰よりも強く生きていることだけは認めざるを得なかった。


「……すまなかった、大介。お前が一番辛い時に、私はお前の道を否定して……追い詰めるようなことばかり言った。私は、自分の理想をお前に押し付けていただけだったんだな」


 誠一郎が深く頭を下げた。あんなに怖かった父の謝罪に、大介の胸の奥で張り詰めていた「舐められたくない」という防衛本能が、温かい涙となって溶け出していく。


「親父……! 分かってくれればいいんだ。俺だって……認めてほしくて必死だったんだよ」


 美香が涙を拭いながら、エイミーの肩を抱く。

「エイミーさん、大介を支えてくれて本当にありがとう。麻衣から聞いてるわ、貴女がどれだけ頑張り屋さんか。あの子、本当はすごく脆いところがあるから、よろしくお願いしますね」


「えっ、あ、あの……はい! 私の方こそ、大介さんを信じて……その、自由になれたんです。彼がいたから、私は自分を好きになれました」


 エイミーは頬を染めながら、心の底からの「信頼」を込めて答えた。


「ちょっとお父さん、もう謝ったんだから顔上げなよ! お兄ちゃん、次は私にリディア産のポーション現物支給してよね!」


 麻衣の明るいツッコミが響き、戸田家の重い空気は一気に華やいだ。

 劣等感と確執に塗れていた家に、ようやく本当の絆が戻った。

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