第171話:再生の架け橋
国家契約の締結と新商品の爆発的ヒット。
リディアトレードは今や、一日の売上が数億円に達する巨大企業へと変貌を遂げようとしていた。
しかし、その急成長の裏で、大介とエイミー、そして麻衣の三人だけでは、物理的に事務作業を捌ききれなくなっていた。
「……大介さん。契約書のリーガルチェックに、数万件の受発注データの管理。流石に私の指が魔術の詠唱よりも速く動いても、物理的な時間が足りませんわ」
エイミーが書類の山に埋もれながら、珍しく弱音を吐く。
そこで大介が決断したのは、かつての「縁」を頼ることだった。
翌日、大介は都内の喫茶店に数人の男女を呼び出した。
彼らは大介が以前勤めていたIT企業の元同僚たちだ。
会社が倒産してから数ヶ月、不況の中で再就職先が見つからず、アルバイトで食い繋いでいる者も少なくなかった。
「……戸田、本当に俺たちでいいのか? 世間じゃお前の会社、国家予算並みの金を動かしてるって噂だぞ」
元チームリーダーだった佐藤が、震える手でコーヒーカップを置く。
「佐藤さん、リディアトレードは今、信頼できる『技術と経験』を持った人間を求めてるんです。
国家プロジェクトを支えるシステムの構築や、膨大な物流の管理……。俺が知る限り、これをお任せできるのは、あの頭のおかしい納期を共に乗り越えた皆さんしかいません」
大介は、用意していた雇用契約書を差し出した。
提示された月給は以前の倍以上。
さらに、ストックオプションや福利厚生として「リディア産ポーションの現物支給」まで盛り込まれた破格の条件だった。
「戸田……いや、戸田代表。ありがとう、本当に助かった。正直、来月の家賃も怪しかったんだ……。またお前と仕事ができるなんて、夢みたいだ」
同僚の一人は、目に涙を浮かべて大介の手を固く握り締めた。
彼らにとって、大介はただの成功者ではなく、絶望の縁から自分たちを救い出してくれた「恩人」となったのだ。
元同僚たちが加わったことで、リディアトレードの「守り」は盤石になった。
元プログラマーたちが作成した要件を元に外部委託構築した受注システムは、秒間数万件のアクセスを軽々と捌き、エイミーが広告塔を務める化粧品ライン**『ルナリス・エッセンス』**の流通を支えた。
「大介さん、彼ら、素晴らしい働きですわね。何より、私たちの『秘密』を他言しないという誠実さが伝わってきますわ」
オフィスとして借り上げたビルの窓から、元気に働く社員たちを眺め、エイミーが満足げに頷く。
「ああ。俺を信じてくれた奴らには、最高の景色を見せてやりたいからな」
かつて倒産に涙した仲間たちと共に、大介とエイミーは、二つの世界を繋ぐ真の「帝国」を築き上げようとしていた。




