第167話:値踏みの終わり
大空洞を抜けた一行の間に、重苦しい沈黙が流れていた。
先ほどまでの嘲笑や軽視は跡形もなく消え失せ、自衛隊の精鋭たちや特務探索者の加賀は、大介とエイミーの後ろ姿に、得体の知れない恐怖と敬意を同時に抱いていた。
「……信じられん。我々が数分持たせるのがやっとだった群れを、たった二工程で片付けたというのか」
加賀が低く唸る。彼の持つ重盾には、アイアン・ビートルの体液がこびりついているが、大介の漆黒のプロテクター『剛力甲・不動』にも、エイミーの『霊銀の聖衣』にも、塵一つ付いていない。
「あら、驚くのは早いですわよ、加賀さん。私たちはまだ、準備運動も終えておりませんもの」
エイミーが『世界樹の枝杖』をカツンと床に鳴らす。その音は、静まり返った洞窟内に異様に響き渡った。
氷室は、タブレット端末に表示される魔力波形データを凝視していた。
「(戸田代表の『重力衝撃』の出力も異常ですが、それ以上にエイミー様の魔力伝導率が測定不能……。これほど高純度の魔術行使、現代の魔法使いには不可能です)」
彼女は確信した。リディアトレードは、単に「運良く異世界のブツを手に入れた成金」ではない。この二人そのものが、異世界の知恵と暴力を完全に支配している「特異点」なのだと。
「……氷室さん、どうされますか。これより先はさらに通路が狭まり、罠の気配も強くなります。我々が先行しますが?」
加賀の問いに、氷室は首を振った。
「いいえ。……戸田代表、エイミー様。ここからは、貴方たちの望む通りに進めてください。私たちは、その『背中』を記録することに専念します」
それは、政府がリディアトレードの実力を完全に認め、実質的な指揮権を委ねた瞬間だった。
「物分かりが良いのは嫌いじゃありませんわ。……大介さん、行きましょう。このダンジョンの奥に、何が眠っているのか。私たちの『新事業』に相応しいものだといいのだけれど」
「ああ、そうだな。……おい加賀、あんまり離れるなよ。迷子になられても困るからな」
大介が不敵に笑い、暗がりの先へと歩み出す。
政府のエリートたちが「護衛」ではなく、ただの「観客」へと成り下がった。
二人のビジネスは、今、日本の国家戦略を根底から塗り替えようとしていた。




