第165話:境界の調査、開始
数日後。都内近郊の山中に突如出現した未踏破ダンジョン『特殊事案第24号』の入り口は、異様な緊張感に包まれていた。
周囲は厳重に封鎖され、迷彩服を着た自衛隊の探索者部隊や、政府に雇われた特務探索者たちが、最新鋭のタクティカル・ベストや大型の魔力ライフルを点検している。
そこへ、一台の高級車が静かに滑り込んできた。
降り立ったのは、二人。
漆黒のタクティカル・ウェアに身を包み、前腕に無骨な金属の塊を装着した大介。
そして、白銀に輝く繊細なローブを纏い、背丈ほどもある古めかしい杖を手にしたエイミーだ。
「……おいおい、正気か? どこのコスプレイヤーだ」
「あれが噂の『ドリルエルフ』と、例の成金代表か。あんなナリでダンジョンに潜るつもりかよ」
並み居る精鋭たちが、失笑混じりの視線を送る。彼らから見れば、大介の装備は「軽装すぎる」し、エイミーの衣装は「豪華すぎて実戦向きではない」ように映ったのだ。
「お揃いですね、戸田代表。エイミー様」
現場の指揮を執る氷室が、冷徹なまでの冷静さを湛えて歩み寄ってきた。
彼女の背後には、政府最強と名高い特務探索者、**加賀**が腕を組んで立っている。
「氷室さん。準備はできているわ。……随分と物々しい歓迎ですね」
エイミーが周囲の嘲笑を柳に風と受け流す。
隣の大介もまた、視線を合わせることなく『剛力甲・不動』のフィット感を確かめていた。
「(……大介さん。周囲の連中、私たちの装備の魔力密度に気付いていませんわね)」
「(いいさ、放っておけ。本物の『アダマンタイト』や『ミスリル』なんて、見たこともない連中だ。説明しても無駄だろうよ)」
二人の密かな会話を遮るように、加賀が鼻で笑った。
「代表さんよ。あんたらの『手品』は映像で見たが、ここは戦場だ。足手まといになるようなら、後ろから撃たれないように気をつけるんだな」
「ご忠告痛み入る。……でも、後ろを心配すべきなのは、貴方たちの方ではないかな?」
大介の余裕の笑みが、氷室の背筋をかすかに震わせた。
「……では、調査を開始します。第一陣、突入!」
氷室の号令と共に、重厚な装備を固めた精鋭たちがダンジョンへと足を踏み入れる。
大介とエイミーも、余裕の足取りでその後に続いた。
直後、ダンジョン内部の薄暗い空間に、数えきれないほどの赤い眼光が浮かび上がった。
この場所が、なぜ「未踏破」であり続けたのか。その理由が、死の羽音と共に襲いかかってくる。
「散れ! 迎撃用意!」
加賀の怒号が響く中、大介は静かに拳を握り込んだ。




