第163話:鋼の拳を求めて
翌日、大介が向かったのは、新宿の片隅にある古びたビルの一室だった。
看板も出ていないその場所は、知る人ぞ知る探索者用特注装備の工房「鉄錆屋」だ。
「……親父さん、いるか。頼んでいた例のやつ、出来てるんだろ」
大介が重い鉄扉を開けると、火花の匂いと共に、白髪交じりの頑固そうな男、源三が姿を現した。
「ああ、戸田の坊主か。……お前の要望通り、リディアトレードから送られてきた『あのアダマンタイト合金』とかいうやつ、全部使い切ってやったぞ。これだけの硬度と粘りを持つ素材は、俺の職人人生でも初めてだ」
源三が作業台から持ち上げたのは、漆黒に鈍く光る一対のプロテクターだった。
「リディア産アダマンタイトと、地球の最新炭素繊維を積層させた特注品……**『剛力甲・不動』**だ」
大介はそれを手に取り、己の拳と前腕に装着した。
ずっしりとした重みがあるが、装着した瞬間に吸い付くようなフィット感に変わる。拳の頭部分には、エイミーがリディアから持ち込んだ、紫色の「重力魔石」が不気味に輝いていた。
「ただの防具じゃねえ。お前の空手のインパクトに合わせ、重力魔石が打撃の瞬間だけ質量を十倍に跳ね上げる。おまけに衝撃吸収機能は戦車砲に耐えるレベルだ」
大介は軽く正拳突きを繰り出した。シュッ、という鋭い風切り音と共に、拳の軌道が空気の壁を叩く。
「……これだ。これなら、俺の全力の突きでも拳が砕ける心配はない」
「二億も稼いだんだ。これくらい贅沢な一品、当然だろう。だが、坊主……その装備を使いこなせるだけの覚悟はあるんだろうな?」
源三の問いに、大介は不敵な笑みを返した。
「当たり前だ。俺はこいつで、世界を黙らせる『窓口』を守らなきゃいけないからな」
自らの拳を固め、大介は確かな手応えを感じていた。これで前衛としての準備は整った。
一方その頃、エイミーもまた、自らの真価を発揮するための「至高の法衣」を求め、リディアの地へと足を踏み入れていた。




