第160話:国家との盤上遊戯
新宿ギルドからほど近い、政府関係者御用達の高級料亭の一室。
大介(エイミー体)とエイミー(大介体)は、氷室と対峙していました。
運ばれてきた懐石料理には目もくれず、静寂の中に衣擦れの音だけが響きます。
「さて、単刀直入に申し上げましょう。政府はリディアトレードを、我が国における『異世界資源の独占的窓口』として公認したいと考えています」
短い対面時間にもかかわらず、決定権を持つのが、大介(エイミー体)と見抜き接してくる油断ならない相手である。
氷室が提示したのは、数枚の機密書類でした。
そこには、税制優遇、輸出入の関税免除、さらには「特別通行許可証」の発行といった、民間企業には有り得ない特権が並んでいました。
「……随分と大盤振る舞いですわね。その代わりに、私たちに何を求めるのかしら?」
エイミー(中身は大介)が、氷室を試すように見つめます。
「求めるのは二点。一つは、今後流通させる希少資源の優先供給権。
そしてもう一つは……エイミー様、貴女の『身の安全』の確保です」
「身の安全、ですか?」
大介の肉体で、エイミーが低く復唱しました。
「ええ。本物のエルフの存在が公になった今、貴女を狙うのは国内勢力だけではありません。他国の諜報機関、過激な研究組織……。国家の庇護下に入ることが、最も賢明な選択だとは思いませんか?」
氷室の言葉は一見、親切な提案に聞こえます。しかし、その本質が「監視」と「管理」であることは明白でした。
「(……どうする大介さん。これに乗れば大介さんのおとう様を黙らせる以上の後ろ盾が手に入ります。でも、自由は制限される……)」
念話のような鋭い視線を送るエイミーに対し、大介(エイミー体)は不敵に微笑み、交渉の主導権を握りにいきました。
「……面白い提案ですね、氷室さん。でも、少し認識が甘いのではないかしら?」
「甘い、とは?」
「私たちは『窓口』になるつもりはありません。私たちが作るのは、二つの世界を繋ぐ新しい『秩序』です。供給権はお譲りしましょう。ただし、その決定権は百パーセント、代表である戸田大介、次点で私、エイミーに帰属するものとします。政府には、口を出す権利ではなく『優先的に買う権利』だけを差し上げます」
エイミー(中身は大介)の強気な要求に、氷室の眉がわずかに動きました。
「それは……事実上、政府をただの顧客にするということですか?」
「いいえ。世界を救うビジネスの、最良のパートナーにするということです」
大介とエイミー。二人の視線が交差し、確かな信頼が火花を散らしました。
国家という巨大な壁を相手に、二人の「リディアトレード」は、対等な関係を築くための第一歩を踏み出したのです。




