第159話:嵐の予感
オークション会場の地下駐車場。
VIP専用の出口へと向かう大介(エイミー体)とエイミー(大介体)の足が、同時に止まった。
そこには、ずらりと並んだ不自然なほど光沢のある黒塗りの高級セダンが数台。
しかも、それを取り囲むように、耳にレシーバーを装着した黒スーツの男たちが、周囲を鋭く警戒しながら立っていた。
「……さすがに、目立ちすぎたかな」
エイミーの体で周囲を窺いながら、大介がボソリと呟いた。
エルフの存在が公衆の面前に現れたのだ。予想していたとはいえ、この包囲網は尋常ではない。
「いいえ、大介さん。これでいいんです。これで、誰も私たちを無視できません」
大介の肉体の中で、エイミーが不敵に笑う。
たとえ国家が相手でも、今の自分たちには交渉のテーブルにつかせるだけの『力』がある。
二人が車へ乗り込もうとしたその時、中央の一台から、一人の女性が降りてきた。
「見事なデモンストレーションでしたわ。リディアトレードの戸田代表、そして……麗しきエルフの姫君」
凛とした、けれどどこか温かみのある声。
現れたのは、仕立ての良いスーツを完璧に着こなした、眼鏡の奥に知性を光らせる女性だった。
年齢は三十代半ばだろうか。その立ち居振る舞いからは、現場の男たちとは一線を画す圧倒的な格が漂っている。
「……どなたかしら?」
大介(エイミー体)が警戒を強めると、女性は小さく会釈をした。
「失礼いたしました。私は、内閣官房直属・異世界事案対策局の**氷室**と申します。……戸田様。お帰りになる前に、少し『未来』についてお話しする時間をいただけないでしょうか?」
彼女は大介たちの動向を完全に把握しているようで、その眼差しには揺るぎない確信があった。
「……私たちの拠点まで嗅ぎ回る気かしら。調査が早いですね」
エイミー(中身は大介)が冷笑を浮かべ、一歩前へ出る。
「いいでしょう。ただし、時間は貴女が思っているほど安くはありませんわよ?」
「もちろんです。落札額二億円以上の価値に見合うだけの『対価』は用意しておりますから」
氷室と呼ばれた女性は、不敵な笑みを返した。
オークションという狂騒の夜が終わり、物語は一企業の枠を超え、国家をも巻き込む巨大なうねりへと加速し始めていた。




