第155話:元カノとの再開(3)
食後のコーヒーを運んできた沙織が、ふと懐かしそうな目で大介を見つめた。
「ねえ大介くん。そういえば、ここだけの話なんだけど……」
「な、なんだよ」
「昔、仕事でミスしたときに一緒に食べたコンビニの肉まん、覚えてる? あの時、大介くんが『俺が沙織を守るから』って、真っ赤な顔で言ってくれたこと」
「ぶふぉぉっ!!」
大介はコーヒーを盛大に吹き出した。そんな致命的な羞恥心を刺激する思い出を、今のパートナーの前で披露されるのは、どんな強敵と戦うよりもダメージが大きい。
「……大介さん。何ですか、その『守るから』って」
案の定、エイミーの背後から黒いオーラが立ち昇った。
「違うんだエイミー! あれは後輩を励ます意味でだな……!」
「へぇー、後輩を『真っ赤な顔で』励ますんだ? 随分と熱血な先輩だったんだねぇ」
ジト目で詰め寄るエイミーに、沙織はさらに楽しそうに追い打ちをかける。
「大介くんって、意外とロマンチストなんだよね。あ、そういえば、あの頃大介くんが自作してた『最強の自分を妄想するノート』、まだ持ってるの?」
「沙織!! それだけは、それだけは言うな!!」
大介は絶叫して頭を抱えた。
しかし、その言葉を聞いたエイミーの顔色が、一瞬で「勝ち誇った顔」に変わった。
「……ふん。サオリさん、残念でしたね。そのノートなら、私がとっくに『押収』済みです」
「……え?」
「大介さんの黒歴史なら、私の方が詳しく知っています! 毎日同じ部屋で過ごして、大介さんの恥ずかしい寝言も、筋トレ中に思わず漏れる変な声も、全部私の耳に入ってるんですから!」
今度は沙織が呆気に取られた。
「……へぇ。大介くん、本当に『全部』見せてるんだ」
沙織は少しだけ寂しそうに、けれどどこか吹っ切れたような笑顔を見せた。
かつての自分たちが持っていた「思い出」よりも、今の二人が積み上げている「日常」の方が、ずっと泥臭くて、そして深い。それを悟ったのだろう。
「負けたなぁ。大介くんのことなら私の方が知ってるつもりだったけど……今の彼の『一番』は、完全にあなたみたいだね」
「……当たり前だよ! 私が大介さんの相棒なんだから!」
エイミーはふんぞり返って大介の腕をこれでもかと引き寄せ、沙織に宣言した。
「ま、今日のハンバーグは美味しかったから。今度は、私が作った『特製スタミナハンバーグ』を食べさせてあげる。大介さんの筋肉を一番よく知ってるのは、私なんだからね!」
「あはは、楽しみにしてるよ。……大介くん、本当に良い子と出会ったね。……お幸せに!」
店を出る際、沙織はかつての恋人ではなく、一人の「元同僚」として、清々しく手を振ってくれた。
帰り道、夕暮れに染まる街を歩きながら、大介は隣でまだ鼻息を荒くしているエイミーを見た。
「……悪かったな、エイミー。元カノだってこと、黙ってて」
「……別にいいです。過去のことだし。……でも、次にああいう人に会う時は、ちゃんと最初に言ってください。心の準備がいるんだから!」」
エイミーはそっぽを向きながら、繋いでいる大介の手をぎゅっと握りしめた。
「それに、いくら『思い出の味』が凄くても……大介さんのこれからを作るのは、私なんだから」
「……ああ。そうだな。帰ったら、またお前の飯、楽しみにしてるよ」
「……うん! 腕によりをかけてあげます!今回の罰は「語尾が猫になる魔法で」許してあげましょう」
「お、おい。今何をかけたにゃん」
二人の日常は、またいつものアパートへと続いていく。
「ぷぷ、大介さん、その顔には致命的に似合いませんね」
「エイミィィー!!にゃん」
少しだけお互いの距離が縮まったような、そんな騒がしくて甘い午後の終わりだった。




