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第153話:元カノとの再開(1)


「大介さん、ご飯食べに行こう!」


アパートの窓を開けて掃除をしていた大介の背中に、エイミーが元気よく声をかけた。


「急にどうしたんだよ。まだ掃除の途中だぞ」


「この雑誌に載ってるハンバーグってやつ、食べてみたいんだよね。……あ、別に自炊が面倒になったわけじゃないから! たまには外の文化を吸収するのも、大事じゃない」


エイミーが差し出した雑誌には、鉄板の上で肉汁を飛ばす厚切りのハンバーグが載っていた。


「ハンバーグか。まあ、最近自炊ばっかりだったし、たまにはいいか。……よし、行くか」


二人が向かったのは、駅から少し離れた場所にある小洒落た洋食店『キッチン・ミズノ』。


落ち着いた雰囲気の店内に入ると、香ばしいソースの香りが鼻をくすぐった。


「いらっしゃいませ……あ」


カウンターの奥から出てきた店主の女性を見て、大介の動きが止まった。


清潔感のあるコックコートを纏い、黒髪をポニーテールにまとめた女性。


キリッとした目元が印象的な彼女は、大介を見て驚いたように目を丸くした。


「……沙織?」

「……え、大介くん? 本当に大介くんなの?」


店主らしき女性、**水野沙織みずの さおり**は、ぱっと顔を輝かせた。


彼女は大介が以前の職場で働いていた時の後輩であり……そして、かつて付き合っていた元彼女だった。


そう言えば両親が料理人と言ってたのを思い出した。


「ひっさしぶり! 全然連絡くれないんだもん、びっくりしたよ。……なんか前より体格、良くなりすぎてない?」


沙織はカウンター越しに身を乗り出し、親しげに笑いかける。


そんな二人の間に流れる「元恋人特有の距離感」を、エイミーの野生の勘が見逃すはずがなかった。


「……ねえ、大介さん。この人、誰?」


エイミーの声の温度が、一気に数度下がった。大介の腕をぎゅっと掴み、隣の沙織をじろじろと油断なく観察する。


「あ、ああ……。前の仕事の後輩の、水野さん。……昔、ちょっと付き合ってたんだ」


「……はぁ!? 元カノ!?」


エイミーの叫びが店内に響き、沙織がクスクスと肩を揺らした。


「あはは、そんな驚かなくても。今はもうただの友達だよ。……で、大介くん。その隣にいる可愛い子が、今の『本命』さん?」


「えっ、いや、それは……」


大介が答えに詰まると、エイミーは顔を真っ赤にしながらも、負けじと大介の腕を強く引き寄せた。


「そうだよ! 私が大介さんと一緒に住んでる……っていうか、パートナーなんだから! 文句ある!?」


「エイミー、言い方!」


「ふーん、同棲中なんだ。大介くん、やっぱり面食いだね」


沙織は余裕の笑みを崩さず、流れるような手つきでメニューを差し出した。


かつての恋人と、現在の同居人。大介を挟んだ女の火花が、注文する前からバチバチと飛び交い始める。


「ハンバーグ、二つ。大介さんは一番大きいの。……あと、私は絶対に負けないから!」


「何に、とは聞かないでおくね。はい、オーダー入ります!」


明るい沙織の声とは対照的に、大介は冷や汗が止まらなかった。


お目当てのハンバーグが届く前に、胃に穴が開きそうな波乱のランチが幕を開けた。

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