第152話:久しぶりの「私」と「俺」
レイン家との和解、そして地球での新たな決意。
激動の日々が一段落し、新宿のアパートには平和な朝が訪れていました。
ふと、大介が朝食のトーストを齧りながら呟きました。
「そう言えば……最近、全然『入れ替わり』してないな」
その言葉に、キッチンでコーヒーを淹れていたエイミーが手を止めます。
かつては毎週のように入れ替わっていた二人。
しかし、お互いの目的が変わってきたことで入れ替わりが必要なくなっていたのてます。
「……言われてみればそうですね。あんなに不便だと思っていたのに、たまには大介さんの厚い胸板を味わいたいですね」
エイミーはカップをテーブルに置き、悪戯っぽく瞳を輝かせました。
「大介さん。……久しぶりに、試してみます?」 「試すって……入れ替わりをか」
「ええ。特に必要ではないですけど、お互いのことを理解するためにどうでしょう?」
大介は少し悩みましたが、
「まあ、いざという時のために練習しとくのも悪くないか」と頷きました。
二人は手を繋ぎ、意識を集中させます。
かつては嵐に飲み込まれるような感覚だった衝撃が、今は穏やかな水面に飛び込むような感覚へと変わっていました。
――カチリ。
「……っ。ふぅ……。やっぱり、この視線の高さは嬉しいですね」
大介の体に入ったエイミーが、逞しい腕を回しながら呟きました。
一方、エイミーの体に入った大介は、慣れないスカートの裾を気にしながらソファに深く沈み込みます。
「俺の方こそ、この体の軽さはいつまで経っても落ち着かないよ。……それにしてもエイミー、俺の大胸筋をこねくり回すのをやめてくれ」
「何言ってるんですか、この筋肉は最高なんですよ」とニヤつくエイミー(大介体)
「いいですか、私だって大介さんの体で鍛えてたんですから、もはやこの大胸筋は私たちの愛の結晶と言っても過言ではありません」
「いや過言だよ!!せめて俺が見てないとこでやってくれ。自分の顔で変態的な行動をとられると複雑だ。これ以上続けるなら俺もお前の胸を揉みしだくぞ」
「わー、やめてください。私が悪かったです」と慌てるエイミー。
「それじゃあ今日はこれからスーパーに買い出しに行くか」
「いいですね。『無骨な大介さん』の中身が私なら、いつもよりお得な食材をスマートに選んで差し上げますよ」
そう言って、大介(中身はエイミー)はガッツポーズを作り、「さあ、行きますよ!」と野太い声で可憐に微笑みました。
大丈夫かなと不安になる様子である。
一時間後のスーパー。 そこには、鋭い眼光でキャベツの鮮度を吟味する大男(大介)と、その後ろで大股で歩く銀髪の美少女の姿がありました。
「大介さん……いや、エイミー。その、内股で歩きながら特売品に突っ込むのはやめてくれ。俺の社会的信頼が死ぬ」
「何を言ってるんですか。この大介さんの体力を活かさずして、タイムセールの争奪戦に勝てるはずがありません! ――おっと、そのお肉は私のものですわよ!」
大介の肉体で、見事な足運び(空手の応用)を使いながら主婦層の間を縫うエイミー。
一方、エイミーの肉体で周囲の視線に耐えきれず、涙目になりながら重い買い物カゴを持つ大介。
「……もう、二度と自分から入れ替わろうなんて言わないからな……」
結局、その日の夕食は大介(中身はエイミー)が完璧な主婦力で作り上げた、超豪華な「男の手料理」となりました。
絆は深まりましたが、平穏な日常での入れ替わりは、戦場でのそれよりも遥かに「精神的ダメージ」が大きいことを学んだ二人なのでした。




