第150話:レイン家の誇り
王都にあるレイン家の仮宿舎。
その広間には、重苦しい、けれどどこか清算されたような静寂が流れていました。
そこに、大介を伴ったエイミーが足を踏み入れます。
「……戻りましたわ、お父様」
正面に座る父ロバートは、目を閉じ、深く息を吐き出しました。
その手元には、王家から届けられた「家名再認定」の書状が置かれています。
「娘が……爵位を、家を……救ったというのか」
ロバートの声は震えていました。厳格で男尊女卑の価値観を貫いてきた彼にとって、自身が「落ちこぼれ」と決めつけた娘が、自身の手に負えなかった没落を、自らの実力と絆で覆した事実は、あまりに衝撃的でした。
「エイミー、よく頑張ったわね……本当に、よく……」
傍らで声を殺して泣いていた母マーガレットが、夫の制止を待たずに駆け寄り、エイミーを抱きしめました。その腕には、娘の成長を喜ぶ母の温もりが宿っています。
「お母様……私、自分の足で立ちたかったのですわ」
「……負けたよ」
不貞腐れたように口を開いたのは、次男ヴァルディスでした。
全身を包帯で巻いた痛々しい姿ですが、その瞳から大介への敵意は消えていました。
「俺が必死に磨いた魔法剣が、あいつの……いや、お前たちが磨き上げた力に完敗だ。実力主義なんだろ? なら、認めざるを得ねえな」
「……ああ。私の教えも、狭い価値観でしかなかった」
長男エドワードもまた、騎士としての矜持を保ちつつ、妹を真っ直ぐに見据えました。
「守られるべき存在だと思っていたが、今の貴様は……レイン家の誰よりも強く、気高い。妹として、誇りに思うぞ。エイミー」
家族全員の視線を受け、最後にロバートがゆっくりと立ち上がりました。
彼は大介を一瞥し、それから娘の前まで歩み寄ると、不器用な手でその肩に触れました。
「エイミー……。わしは間違っていた。お前は家を繋ぐための道具などではない。レインの魂を最も正しく受け継いだのは……お前だったのだな」
ロバートの瞳に、初めて父親としての深い情愛と後悔が滲みました。
「……エイミー、帰ってこい。お前はもう、わしやこの家の重荷ではない。……お前は、わが家族の、最高の誇りだ」
その言葉に、エイミーがずっと張り詰めていた「魔女」の仮面が、音を立てて崩れました。
「……っ……ありがとう、お父様……!」
エイミーは父の胸に顔を埋め、子供のように泣きじゃくりました。
家出をしたあの日から、ずっと心の奥底で求めていた「肯定」の言葉。
大介はその光景を、少し離れた場所で静かに見守っていました。
その大きな手は、いつでも彼女を支えられるよう、優しく握りしめられていました。
レイン家の呪縛は、今、温かな涙と共に溶けて消えたのでした。




