第149話:王都の酒場にて
武闘大会が閉幕し、王都の夜はかつてない熱気に包まれていました。
どの酒場も、今日という伝説の一日を語り合いたい人々で溢れかえり、ジョッキがぶつかり合う音が絶えません。
「聞いたかよ! 決勝のあの一撃!」
「光魔法を拳一つで穿つなんて、そんなの魔法騎士団の団長クラスでもなきゃ不可能だぜ!」
王都でも一番の賑わいを見せる酒場『銀のドリル亭(図らずもエイミーの異名にあやかった店名である)』では、話題は大介のことでもちきりでした。
「凄かったのは戦いだけじゃねえ。あの男、王から授けられる爵位を『いらねえ』って断りやがったんだぞ!」
「ああ、隣の銀髪の嬢ちゃんの家を助けてくれってな。あんなに潔い男、この王都に今までいたかよ」
「『俺の功績は全部彼女のものです』なんて、一度でいいから言われてみたいもんだねぇ!」
酔客たちは口々に大介の無欲さと、エイミーへの一途な忠義を称賛していました。
一部の若い冒険者たちは「これからは魔法空手の時代だ!」と、見よう見まねで拳を回し始める始末です。
その喧騒から少し離れた、二階の個室。 そこには、今日の主役である大介とエイミー、そして修行を共にしたガルガンとリリーの姿がありました。
「わははは! 見ろよ大介、窓の外を! お前の噂で街が揺れてるぜ!」 ガルガンが豪快にエールを飲み干し、大介の背中をバンバンと叩きます。
「勘弁してくれ……。俺はただ、エイミーの願いを叶えたかっただけなんだ」 大介は照れ隠しにジョッキに口をつけますが、その視線は隣で静かに微笑むエイミーへと向けられていました。
「……ふん。街の連中も、ようやく見る目が養われてきたようですね」
エイミーはいつものように強気な口調を崩しませんが、その頬は赤らみ、繋いでいる大介の手を離そうとはしません。
「お熱いねぇ。……そう言えば大介、街じゃお前がエイミーに頭が上がらないのは、『何か致命的な弱みを握られているからだ』なんて噂になってるぜ?」
ガルガンの冷やかしに、大介は「弱み?」と眉をひそめましたが、隣のエイミーがふっと得意げに胸を張りました。
「当然ですわ。大介さんの**『中二病全開・黒歴史ポエムノート』**は、すでに私の手中にあります」
「ぶふぉっ……! お、おいエイミー、なんでお前がそれを知ってるんだ!? お前、勝手に俺の部屋の引き出し開けただろ!」
大介が顔を真っ赤にして立ち上がると、エイミーは「しまっ……」という顔をして、泳ぐように視線を逸らしました。
「あ、あら、なんのことかな……? 掃除をしていたら、偶然、勝手に、ノートのほうが開いて語りかけてきただけです。……『俺の右手に宿る暗黒の……』でしたっけ?」
「それ以上言うな! いますぐ忘却魔法を自分にかけろ!!」
わめく大介と、口を尖らせてそっぽを向くエイミー。そのやり取りを見て、リリーは呆れ半分、安心半分といった様子で苦笑しました。
「……ふふ、本当に仲がいいんだから。……でも、冗談はさておき、エイミー。これで本当にお父様たちも納得してくれるかしら?」
「ええ。リディアは武を尊ぶ国。王が認め、あれだけの力を見せつけられたのです。……意地っ張りな家族ですが、認めざるを得ないはずです」
酒場の喧騒は夜更けまで続きました。
「ヤバい優勝者」と「愛された魔女」の物語は、吟遊詩人の手によって、早くも新しい伝説として書き留められようとしていました。




