第148話:無欲の英雄、名誉の請願
王国武闘大会、閉会式。 闘技場の中央に設けられた玉座の前で、大介は片膝をついていました。
その傍らには、フードを脱ぎ、レイン家の令嬢として凛とした姿で控えるエイミーがいます。
リディア王国の国王は、満足げに大介を見下ろし、厳かに口を開きました。
「見事であった、大介。貴殿の振るった拳は、我が国の騎士道に新たな風を吹き込んだ。その功績を称え、余は貴殿に男爵の爵位と、王都近郊の領地を授けようと思う。……どうだ、我が国の重鎮として、その力を振るう気はないか?」
会場がどよめきました。一介の冒険者が一飛びで貴族の仲間入りを果たす。
それは、誰もが喉から手が出るほど欲しがる名誉でした。
しかし、大介は表情を動かすことなく、静かに頭を下げました。
「……畏れながら陛下。その過分な賞賛、謹んでお断りしたく存じます」
「なっ……!?」 貴賓席でその様子を見ていた父ロバートが、思わず立ち上がりました。
王からの直々の授与を辞退するなど、この国の歴史でも類を見ない不敬、あるいは愚行です。
「……ほう。爵位も、領地もいらぬと言うのか。では、貴殿は何を望む?」
王の問いに、大介は隣に立つエイミーへと視線を向け、それから再び王を真っ直ぐに見据えました。
「俺が望むのは、ただ一つ。……今回の俺の功績のすべてを、エイミー・レイン、および彼女の実家であるレイン家の名誉復興に充てていただきたいのです」
大介の声は、魔法で増幅されたかのように会場の隅々まで響き渡りました。
「彼女は、俺の最高のパートナーであり、俺をここまで導いた師でもあります。レイン家は、決して没落すべき家系ではありません。どうか、彼女たちの家を再び王国の柱石として認めていただけないでしょうか」
会場は静まり返りました。 己の名誉を捨て、ただ一人の女性と、その家族のためにすべてを捧げる。
その無欲さと、エイミーへの深い忠義、そして愛。王都の大人たちは、その青臭くも純粋な熱量に、肌が泡立つような戦慄を覚えました。
王はしばし沈黙した後、快活に笑い声を上げました。
「――面白い! 己の栄華よりも、守るべき者の未来を選ぶか。……よかろう! その願い、聞き届けた。エイミー・レイン、そしてロバート・レイン。貴殿らの家系を、再び王国の誉れ高き家門として、余が直々に再認定しようではないか!」
「はっ……! ありがたき幸せに存じます!」
大介の隣で、エイミーは深く頭を下げました。
その瞳からは、これまで一人で抱えてきた重圧が解け、一筋の涙がこぼれ落ちました。
爵位よりも尊いものを守り抜いた男。
その姿は、王都の人々の目に、どの貴族よりも気高く映っていました。




