第146話:蹂躙の準決勝
予選を突破し、ベスト4が出揃った闘技場。
その空気はもはや「お祭り」ではなく、未知の脅威に対する「畏怖」へと変わっていました。
準決勝、大介の対戦相手として現れたのは、レイン家の次男でありエイミーの兄、ヴァルディス・レイン。
彼は傭兵団仕込みの荒々しい魔力を全身に纏わせ、憎悪の入り混じった視線で大介を睨みつけました。
「……落ちこぼれの妹をたぶらかした挙句、予選で少し目立ったからといい気になるなよ。あんな見せかけの回転、俺の魔法剣で切り刻んでやる!」
ヴァルディスは審判の合図を待たずに地を蹴りました。
彼の剣には、炎と風の複合魔法が宿り、触れるものすべてを焼き切る「爆風の刃」と化しています。
「死ねッ!」
一閃。闘技場の石畳が熱波で弾け飛ぶほどの威力を、大介は避けるどころか、あえて一歩踏み込んで迎え撃ちました。
「……遅いな」
大介はエイミーとの特訓で、より高密度のマナを瞬時に一点に集中させる技術を体得していました。
彼はヴァルディスの剣筋を、最小限の動きで「掌底」により逸らします。
「なっ!? 俺の炎を素手で……!?」
「エイミーの地球での火炎魔法に比べれば、お前の熱量など微風に等しい」
大介の言葉は、ヴァルディスにとって何よりの屈辱でした。
激昂した彼が無理な体勢から追撃を繰り出そうとした瞬間、大介の足運びが彼を翻弄します。
「……『旋流・三連』」
シュッ、シュッ、シュッ! と鋭い風切り音が響きました。 一撃目は相手の正拳を弾き、二撃目で腹部のマナの巡りを寸断。そして三撃目――。
大介の拳が、ヴァルディスの胸元で「螺旋」を描きました。
ドォォォォン!!
「があぁぁぁッ!!」
爆発的な衝撃がヴァルディスを襲います。それは単なる衝撃波ではありません。
体内に打ち込まれた螺旋状のマナが、彼の魔力回路そのものを一時的に麻痺させ、吹き飛ばしたのです。
ヴァルディスは闘技場の壁に激突し、そのまま意識を失って崩れ落ちました。
「……勝者、大介!」
審判の宣言が響き渡る中、貴賓席は静まり返っていました。 「……ヴァルディスが……。魔法剣を極めたはずのあいつが、手も足も出ないだと……?」
長男エドワードは戦慄し、父ロバートは震える拳を膝の上で固めていました。
自分たちが「落ちこぼれ」と決めつけていた娘が連れてきた男が、家の「誇り」であるはずの息子を完膚なきまでに叩き伏せたのです。
観客席のエイミーは、フードの中で静かに笑いました。
「……当然の結果ですわ。お兄様程度の『覚悟』では、大介さんの拳は止まりません」
彼女の視線はすでに、決勝戦の舞台を見据えていました。
そこには、彼女を縛り付けようとした元婚約者、アルフレッド・ヴァンハイムが立っています。
「さあ、次が最後ですわね、大介さん。……私たちの『自由』を、あの方に分からせてやりましょう」
大介はエイミーの視線に応えるように、観客席へ向けて静かに拳を握り込みました。




