第145話:螺旋の衝撃
予選のリングは、驚愕と興奮が混ざり合った異様な熱気に包まれていました。
「……何者だ、あの男は」
「魔法を使わずに、重装騎士を一撃だと?」
観客席がざわつく中、大介は表情一つ変えずに次の対戦相手を待ちます。
続く第二、第三戦も、王都の精鋭たちが名乗りを上げましたが、結果は同じでした。
大介の拳が空を裂くたびに、魔法障壁も、鍛え上げられた筋肉も、まるでもろい粘土細工のように粉砕されていきます。
「……エイミー、ダイスケの動き、以前よりさらに洗練されていますね」
観客席の隅で、リリーが感嘆の声を漏らしました。隣に座るエイミーは、フードの奥で誇らしげに唇の端を上げます。
「当然です。あの不器用だった大介さんが、魔法操作を完璧にその拳に宿したのですから。今の大介さんの打撃は、ただの衝撃ではなく、相手の防御を食い破る螺旋のドリル。防げるはずがありませんわ」
予選の最終戦。対戦相手として現れたのは、王都でも名の知れた魔導騎士、ゼロスでした。
彼は剣を構えると同時に、高度な多重魔法障壁を自身の周囲に展開します。
「前の奴らと同じだと思うなよ、冒険者。この『鉄壁の盾』は、上位魔法ですら傷一つつけられん!」
ゼロスが詠唱と共に雷鳴を纏った突進を仕掛けます。
大介はそれを、エイミーから学んだ「身体強化」を足に纏わせ紙一重に回避。
そのまま、無防備になったゼロスの横腹へ拳を突き出しました。
「無駄だ! 障壁がある限り、お前の拳は届――」
「……『貫通掌底』」
大介が短く呟くと同時に、拳に凝縮されたマナが超高速回転を始めました。
ギュリリィィッ!!
耳を劈くような硬質な回転音が響き、ゼロスが絶対の自信を持っていた多重障壁が、ガラスが割れるような音を立てて粉々に砕け散りました。
そのまま大介の拳は、威力を殺すことなくゼノスの腹部にめり込みます。
「が、はぁっ……!?」
ゼノスは白目を剥き、闘技場の端まで転がっていきました。
一瞬の静寂の後、審判が震える声で大介の勝利を告げました。
貴賓席では、父ロバートがその光景を呆然と見つめていました。
「……信じられん。あの障壁を……物理的な打撃で、それも一点の曇りもなく穿つとは。あれは……魔法なのか? それとも武技なのか?」
「父上、落ち着いてください。……まぐれに決まっています」 エドワードが必死に平静を装いますが、その手は自身の剣の柄を強く握りしめ、白くなっていました。
一方、エイミーは大介の勝利を見届けると、ふっと力を抜いて椅子に深く座り直しました。
「……ふん。当然の結果ですわ。さあ、次は準決勝。……王都の鼻持ちならない連中に、本物の『強さ』を叩き込んでやりましょう」
その瞳には、かつての弱気な少女の面影はなく、最強のパートナーと共に未来を切り拓く「魔女」の確信が宿っていました。




