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第138話:エイミー無双


「――これでおしまい!」


新宿ダンジョン14層、最奥部。巨大な円形広間に、エイミーの元気な声が響き渡った。


目の前に鎮座するのは、この階層の主『グラン・バハムート・リザード』。全身を硬質の鱗で覆い、並の探索者パーティなら物理攻撃が通らずに絶望するフロアボスだ。


だが、エイミーは身構えることすらしない。


銀髪を指先で弄び、紺色の魔道ローブを微かに揺らしながら、獲物を見るような冷ややかな視線を巨獣へ向ける。


「グルアァァァッ!」


ボスの咆哮と共に、猛烈な衝撃波が広場を駆け抜ける。


しかし、エイミーの周囲に展開された目に見えない魔力の障壁が、その圧を無造作に霧散させた。


「咆哮だけは立派ですね。魔法障壁さえあれば怖くないです」


エイミーが、ゆっくりと右手を掲げる。その瞬間、広間全体の空気が一変した。


「『螺旋の洗礼スパイラル・カース』」


彼女の背後に、十、二十と、高密度の魔力が凝縮された電撃が展開される。大介が放つ「髪の毛を伸ばす魔法」とは比較にならない、空間そのものを削り取る破壊の渦。


「……穿ちなさい」


エイミーが指先を振り下ろすと、無数の雷が全方位からボスを襲った。


魔法耐性のない地球の魔物にとって、それは抵抗不能な「死の宣告」に等しい。雷撃は鱗を紙のように焦がし、ボスの巨体を内側から粉砕していった。


――ドォォォォォン!!


轟音と共に、14層の主であった巨獣は、血の一滴すら残さず、キラキラと輝く魔力の塵へと還元された。


あとに残ったのは、深く、美しく円錐状に抉られた巨大なクレーターだけだ。


「…………」


ボスの消滅を確認し、周囲に人影がないことを魔力探知で徹底的に調べる。


確信を得た瞬間――エイミーの纏っていた「戦闘モード」の空気が、霧散するように消えた。


「見た目は大きくてびっくりしました。私にかかれば圧勝ですね!」


エイミーは愛用のローブの裾をぎゅっと握りしめた。 鋭かった瞳は潤み、自信なさげに周囲をキョロキョロと見渡す。


リディアでも地球でも、彼女は生き残るために「最強の魔女」を演じ続けてきた。だが、その中身は、強大な魔力に怯える一人の少女のままだ。


「大介さんがいないと、やっぱり……心細いです。……あ、でも、今の戦い方はバッチリでしたから。……大介さん、褒めてくれるでしょうか……」


さっきまでの様子はどこへやら、彼女はクレーターの底に落ちた魔石を魔法で恐る恐る手元に引き寄せると、それを大事そうに抱えた。


「……さあ、早く戻りましょう。ギルドの人たちに見られる前に、『魔女』の顔を作らなくては……」


エイミーは深呼吸を繰り返し、再び「高圧的な表情」を無理やり作り上げる。


銀髪をバサリと払い、彼女は再び、孤独な演技を纏って地上への帰路についた。

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