第130話:絶望の氷穴と、やかましい仲間たち
第二試験の舞台は、極低温の魔力が渦巻く『永久凍土の魔氷穴』。
本来ならBランク冒険者が足を踏み入れれば数分で凍像と化す死の地ですが、そこには場違いなほど騒がしい三人の声が響いていました。
「……ちょ、ガルガン! 近いっての! 暑苦しいわね!」
「ガハハ! 何言ってやがるリリー、この極寒の中じゃ俺の筋肉こそが最高の暖房だろうがぁ! ほら、もっと寄れ!」
「物理的な圧が強すぎて、凍死する前に圧死するわよ!」
大介は先頭を歩きながら、肩をすくめました。
「二人とも、口を動かす暇があるなら足元に注意しろ。……来るぞ」
大介の声と同時に、氷壁から巨大な氷のムカデ
『フロスト・センチピード』が数体、音もなく滑り落ちてきました。
「よっしゃあ! 出番だなぁ!」 ガルガンが巨大な斧を振り回しますが、極低温で硬化したムカデの外殻に弾かれ、火花が散る。
「硬ぇ!? なんだこいつ、俺の自慢の腕力が通じねえぞ!」
「当たり前でしょ、脳筋! 表面が凍ってダイヤモンド並みの硬度になってるのよ!」 リリーが氷結の隙間を狙って矢を放ちますが、冷気の渦に軌道を逸らされます。
「……どけ。俺が『解凍』してやる」
大介がスッと前に出ました。
彼は腰を低く落とし、ムカデの突進に対してあえて一歩踏み込むと、その冷たい節足の隙間に**『掌底』**を添えました。
「魔法空手・『熱振』!」
掌から放たれたのは、超高速の振動と火属性の魔力。
一瞬にして外殻の氷を蒸発させ、内部組織をドロドロに焼き切る一撃。
ムカデは悲鳴を上げることなく、内側から弾け飛びました。
「……はぁ? 今の何よ。パンチっていうか、ただ触っただけじゃない」 リリーが呆然と呟きます。
「あの『遠くの魔境(地球のダンジョン)』で、魔力をコネコネいじってたのが役に立ったんだよ。力で叩き割るより、波長を合わせて内側から壊す方が効率が良い。……いわゆる『適材適所』ってやつだな」
「お、おおう……。あのおどおどしてた時期の大介は見てて不安だったが、今の理屈っぽくて強え大介は、それはそれで不気味だぜ……」 ガルガンが頬を引きつらせます。
「……不気味って言うな。あれはあれで、俺には必要な時間だったんだ」
大介が眉をひそめたその時、洞窟の最深部から、地響きと共に『氷河の主』が姿を現しました。
あまりの冷気に、大介の火属性循環すらもかき消されそうになります。
「……ガルガン、リリー。こいつは一人じゃ無理だ。俺が隙を作る、お前らの一番デカい一撃を叩き込め!」
「合点承知ぃ! 大介の背中は俺が守ってやるぜぇ!」
「外したらあんたの奢りだからね、大介!」
絶体絶命の環境下で、三人は不敵に笑い合います。
一人では届かないAランクの壁。
しかし、互いにツッコミを入れ合い、欠点を埋め合うこの三人なら、氷河の主すらも熱く溶かせるはずでした。




