第127話:酒場の告白、そして託された秘密
オーガ討伐の興奮が冷めやらぬ中、リディアの酒場『跳ね馬亭』は、三人の祝勝会で熱狂に包まれていました。
テーブルには溢れんばかりの肉料理と、なみなみと注がれたエールが並びます。
「ガハハ! 今日のお前はマジで凄かったぜ、大介! あのオーガの腕を弾き飛ばした時、一瞬お前が『戦神』に見えたくらいだ!」
ガルガンがジョッキを叩きつけ、上機嫌に笑います。
しかし、ふと一息ついたリリーが、心中に抱いていた疑問を口にしました。
「……ねえ、大介。さっきの戦いもそうだけど、あんた、どうしてそんなに急いで強くなろうとしてるの? 前のあんたはもっと……なんて言うか、のんびりしてたじゃない」
その問いに、大介はジョッキを置き、少しの間を置いてから真っ直ぐな瞳で二人を見つめました。
「……守りたいやつを、見つけたんだ」
冗談でも、酔った勢いでもない。その真剣な声に、酒場の喧騒がわずかに遠のいた気がしました。
「俺はまだ弱すぎる。あいつが危機に陥った時、何があっても自分のこの拳だけで守りきれる……。そんな、絶対的な強さが欲しいんだ」
一瞬の静寂の後。
「……大介ぇ! そ、それって……俺のことかぁぁ!? 嬉しいぜ、この野郎ぉ!」
感極まったガルガンが、涙目で大介の首に腕を回して引き寄せました。
鼻水を啜りながら「俺もお前を守るからなぁ!」と叫ぶ暑苦しい男に、大介は苦笑しながらもその腕を振り払いました。
「ふざけんな、お前はただの暑苦しい相棒だ。
勘違いすんな」
「んだとぉ!? 冷てえなぁ!」
じゃれ合う二人を見て、リリーはクスリと笑いましたが、その瞳は鋭く大介を観察していました。
そして、ガルガンが追加の酒を注文しに席を立った隙に、彼女は声を落として囁きました。
「……やっぱり、いつものあんたじゃないわね」
大介の肩が、微かに跳ねました。
「仕草、言葉遣い、それにあの独特の格闘技術……。前のあんたと中身が入れ替わってるか、何かがあったのは確かでしょ。……あの夜、乙女みたいな悲鳴を上げて逃げたあんたが、今の『大介』と同一人物だなんて、私には信じられないわ」
リリーは詰め寄るわけでも、軽蔑するわけでもなく、ただ確信を持ってそう告げました。
「いいわ。今は何も聞かない。でも、いつかあんたが話せるようになったら……本当のことを聞かせてよ。私たちの『相棒』が、どうしてこんなに立派な騎士様になっちゃったのか」
大介は驚き、それから降参したようにふっと息を漏らしました。
「……ああ、感謝するよ、リリー。その時が来たら、必ず全部話す。約束だ」
「期待してるわよ」
リリーはそう言ってジョッキを傾けました。
秘密を共有し、絆を深めた三人の夜は更けていきます。
次に待つのは、リディアの最高峰へと至る『Aランク昇格試験』。大介の決意は、もはや揺るぎないものになっていました。




