第121話:境界線を越える、それぞれの修行
夕食後の静かなひと時、大介は窓の外に広がる東京の夜景を眺めながら、重い口を開きました。
「なあ、エイミー。少し考えていたんだ」
「なんです? 改まって」
大介は自分の分厚い拳をじっと見つめました。
その拳は数多の魔物を沈めてきましたが、彼の表情にはどこか焦燥感が漂っていました。
「地球では、俺はただの筋肉自慢の格闘家に過ぎない。……もし、ここでお前が俺の知らない未知の脅威に襲われたら、今の俺じゃ守りきれない。それが、どうしようもなく嫌なんだ」
エイミーは茶を淹れる手を止め、大介の背中を見つめました。
「だから……しばらくの間、いつもの入れ替わりじゃなく、俺をリディアに行かせてくれないか。お前の世界で、魔法と格闘術の融合を極めてきたいんだ。本当の意味で、お前を守れる力を付けるために」
その言葉に、エイミーは一瞬驚いたように目を見開きましたが、すぐに顔を赤らめ、視線を泳がせました。
「な、何を言うかかと思えば……。私を守るために強くなりたいだなんて……。ふん、いいですよ。大介さんのその暑苦しい筋肉が少しは役に立つようになるなら、協力してあげないこともないですよ」
照れ隠しにツンとそっぽを向きながらも、エイミーの口元には隠しきれない喜びが滲んでいます。
「快諾、ということでいいか?」
「ええ、その代わり、私もあなたの世界のダンジョンをもっと調査してみます。リディアトレードの商材探しも兼ねて、ね」
エイミーが急に思い出したようにつぶやく
「あ、ガルガンさんと変な関係になっちゃダメですからね」
「なるか!?男色と誤解されてるのはおまえのせいだろうが」
「いいじゃないですか、私の方は気をつけることありますか?」
「そうだな。エイミー、お前はこっちの世界じゃ『高飛車な魔女』っていう設定で通してるんだ。言動にはくれぐれも気を付けろよ?」
「 分かっていますわよ、そういう『演技』は得意ですもの」
エイミーはわざとらしく高笑いをして見せました。
「よし、じゃあ……お互い、次に会う時は一回りデカくなってようぜ」
「約束ですわ、大介さん」
二人はゲートの前で拳と杖を軽く合わせると、それぞれの決意を胸に、逆方向へと踏み出しました。
大介は魔法文明の極地リディアへ、エイミーは科学とダンジョンが混在する地球へ。
二つの世界の境界線で、二人の新たな試練が幕を開けました。




