第120話:法人リディアトレードの夜明け
バリケードを崩して「城」に戻った大介は、ドカッと椅子に腰を下ろし、深くため息をつきました。
「お帰りなさい、大介さん。……大変な敵だったようですね。顔色が悪いですよ」
エイミーが心配そうに、魔法で温めたハーブティーを差し出します。
大介はそれを一口啜ると、観念したように口を開きました。
「……敵っていうか、お袋だよ。戸田美香。俺の母親だ。心配してアパートまで来やがった」
エイミーはパッと表情を輝かせ、銀色の髪を揺らしました。
「え! 大介さんのお母様! それは……私、ご挨拶に伺った方がよかったかな? お菓子の一つでも用意して……」
「いや、いい、まだ早い。お袋に会わせたら最後、『いつ結婚するの』から始まって、根掘り葉掘り聞かれてお前の正体までバレちまう。……それに、親父の問題もあるしな」
大介は頭を抱えました。市役所勤めで堅実一点張りの父・誠一郎の顔が浮かびます。
「親父は『まともな職に就け』ってうるさいんだ。今回、稼いだ金を見せてお袋は少し安心したみたいだけど、親父を黙らせるには『社会的地位』ってやつが必要なんだよ」
「社会的な、地位……。でも大介さん、ギルドのランクならもうBランクに到達しているじゃないですか」
「そこなんだよな。この間の新宿ダンジョンの功績で上がったけど、冒険者証はお前の名前だろ? 俺はいまだにFランクだ。……これじゃ、親父に『博打打ちのヒモか!』って言われるのが関の山だ」
大介の苦い言葉に、エイミーはふふっと不敵な笑みを浮かべました。
「もう仕方ないですね。私がヒモの大介さんを立派に養ってあげますよ! さあ、私の横でずっとプロのヒモとして、ふかふかのソファに座っていなさいな!」
「バカ言え! 誰がヒモのプロを目指すか! 夢が小さすぎるだろ!」
大介の鋭いツッコミに、エイミーは「ふふっ」と不敵な笑みを浮かべました。
彼女は冗談を切り上げ、机の上に以前二人で冗談半分に作成した書類の束を広げました。
「それなら、いよいよ本腰を入れるしかありませんね。私たちが立ち上げた法人――**『株式会社リディアトレード』**を、日本一、いいえ、二つの世界を繋ぐ最大の商社にするんです。大介さん、あなたはそこの『代表取締役』なんですから」
大介は書類に記された自分の名前を見つめました。
「リディアトレード、か……。異世界のポーションや素材をこっちで流通させ、こっちの技術をリディアに持ち込む。それが上手くいけば、ただの風来坊じゃなくて『新進気鋭の実業家』だもんな」
「ええ。そうなれば、お父様も文句は言えないでしょう。 そして、その会社がもっと大きくなれば……いつか胸を張って、ご家族に私を紹介してくださいね」
エイミーの真っ直ぐな瞳に、大介は力強く頷きました。
「ああ、そうだな。冒険者として魔物をぶち抜くのもいいけど、親父を黙らせるために『会社』をデカくしてやるよ。よし……まずは次の取引の準備だ、エイミー!」
「はい、社長!」
二人の「城」に、新たな目標が灯りました。
それは冒険の枠を超え、二人の未来を社会的に繋ぐための、大きな挑戦の始まりでした。




