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118話:継承される想い、そして「城」へ


エルゼの家を後にした二人の背中を、森の隙間から差し込む夕陽が長く引き伸ばしていました。


手入れの行き届いた庭を抜け、木々のざわめきだけが響く帰り道。


エイミーの手には、エルゼが「お守りに」と持たせてくれた、古い金槌の刻印を写した小さな銀のチャームが握られていました。


「……大介さん」


沈黙を破ったのはエイミーでした。その声は、森の冷気に震えることもなく、どこか澄み渡っていました。


「私、自分のことが少しだけ誇らしく思えました」


「誇らしい?」 大介は歩幅を緩め、隣を歩く小さな魔法使いを覗き込みました。


「はい。エルフの寿命が長いのは、孤独になるためじゃなくて、大介さんのような素敵な人がいた証を、世界に刻み続けるためにあるんです。……だから、私があなたを看取った後の百年は、あなたがこの世界で笑っていた証明を、私が一秒も欠かさず語り継ぐための大切な時間なんです」


エイミーの瞳には、もう迷いの影はありませんでした。


老化魔法に怯え、未来の喪失に涙していた少女は、今や一人の「愛する者を守る魔法使い」としての、静かな、けれど決して折れない覚悟を宿していました。


「……へっ。そんなに長く語り継がれたら、恥ずかしくて天国で昼寝もしてらんねえな」


大介は照れ隠しにぶっきらぼうな声を出し、頭をガシガシとかきました。


けれど、その後に続いた言葉は、いつになく優しく響きました。


「でもまあ、お前がそこまで言うなら、俺もみっともねえ生き方はできねえな。最高の『語り草』になれるよう、まずは今日の飯でも旨いもん食うか」


「ふふ、そうですね。大介さんらしいです」


エイミーはそう言って笑うと、今度はためらうことなく、大介の逞しい腕に自分の細い腕を絡めました。


伝わってくるのは、老化魔法が映し出した枯れ木のような感触ではなく、生命力に満ちた確かな熱。


いつか失われると分かっていても、今この瞬間の熱こそが、何物にも代えがたい真実なのだと彼女は知っていました。


「さあ、帰りましょう。私たちの『城』へ!」


二人は並んで、夕闇に包まれ始めたリディアの街へと歩みを進めます。


セリアの大叔母から受け取った、時間を超える愛の形。


それを胸に抱いた二人の後ろ姿は、寄り添う影さえも、一つの確かな絆として刻まれていました。


種族の違いも、寿命の断絶も、もう二人を引き裂く理由にはなりません。


彼らの物語は、終わりを恐れる段階を過ぎ、共に「今」を使い切るという、新たな章へと踏み出したのでした。

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