第116話:賢者の血筋と、禁忌の系譜
八王子での出来事を経て、エイミーは一つの答えに辿り着いたつもりでした。
けれど、ふとした瞬間に、自分一人だけが若々しいまま取り残される静かな未来を想像しては、胸の奥がチリリと痛むのを止めることができません。
そんな彼女の心の揺らぎを、親友であるセリアが見逃すはずもありませんでした。
「エイミー、私の大叔母……祖母の姉妹にあたるエルゼに会いに行ってみませんか? 彼女は一族の中では、ある意味『禁忌』に触れた方とされていますけれど、今のあなたには、彼女の言葉が必要な気がします」
セリアの大叔母、エルゼ。
彼女はかつて、エルフ一族の猛反対を押し切り、リディアの街で腕利きだった人族の鍛冶屋と恋に落ちました。
そして彼が天寿を全うするその瞬間まで、最愛の妻として添い遂げた女性です。
セリアが人族に対して偏見を持たず、大介たちの関係を温かく見守っている背景には、この風変わりな大叔母の存在がありました。
二人はセリアの案内に従い、リディアの街外れ、鬱蒼と生い茂る森の合間にひっそりと佇む一軒家を訪ねました。
「大叔母様、セリアです。大切なお友達を連れてきました」
セリアが控えめに扉を叩くと、ゆっくりと重厚な木の扉が開きます。
そこに立っていたのは、セリアとよく似た理知的な顔立ちをしながらも、その瞳に悠久の歳月と、すべてを受け入れた凪のような穏やかさを湛えた女性、エルゼでした。
「……あら、セリア。それに、珍しいお客様ですね。人族の騎士様と、純白の魔力を纏ったお嬢さん」
エルゼの視線が、大介の逞しい体格と、その腕をぎゅっと掴んで離さないエイミーに向けられます。
彼女はすべてを見透かしたように優しく微笑むと、二人を家の中へと招き入れました。
「どうぞ、中へ。主人が生前、最後まで手入れを欠かさなかった自慢の椅子を使いなさい。……お茶を淹れますからね」
一歩足を踏み入れたその家は、エルフの優雅な住居とはどこか趣が異なっていました。
微かに漂う鉄の匂いと、使い込まれた人族の道具たち。
そこには、種族を超えた二人が確かにそこで生きていたという、消えない体温の残滓が満ちていました。




