第100話:見えない魔物と、最強の避難所
ディ◯ニーにお化け屋敷はないですが、話の都合上登場します
「次は『お化け屋敷』ですか? フン、笑わせないでください。私を誰だと思っているんですか。数多の不浄な存在を退けてきた高位の魔法使いですよ?」
ジェットコースターで魂が抜けかけていたはずのエイミーでしたが、地に足がつくとすぐさま強気な態度を取り戻しました。
昨日新調したばかりのブラウスの袖をまくり、意気揚々と暗い館の入り口へ歩を進めます。
「いいか、エイミー。ここに出てくるのは本物の幽霊じゃなくて、人間が化けてるだけなんだ。絶対に攻撃魔法をぶっ放すんじゃないぞ」
「わかっていますって。偽物の死霊など、私の鼻歌まじりの結界で……ひゃっ!?」
足元から不意に吹き出した冷たい突風に、エイミーは猫のように飛び上がりました。
一歩中へ入れば、そこは完全なる闇。不気味な読経の音と、どこからか聞こえる女のすすり泣きが、冷気と共に肌を撫でます。
「……だ、大介さん。やはりここ、負の気が溜まりすぎています。空間が歪んで、得体の知れない邪悪な気配が……あ、あそこに生首が浮いています!」
「落ち着け、あれはただの模型だ。ほら、作り物だって――」
「ギギギ……」と音を立てて扉の影から飛び出してきた落ち武者の人形に、エイミーの我慢は限界を迎えました。
「来ないでください! この、不浄なるものめ!」
彼女は反射的に、隣にいた大介の腕に文字通り「しがみつき」ました。
ただ掴むのではなく、まるで大木に抱きつくセミのように、大介の逞しい右腕に全身を預けています。
「おい、エイミー。重い……というか、近い。腕が動かせねえよ」
「大介さんのバカ!レディに向かって重いはないです! 今は非常事態なんです! この腕は、私を守るための聖域として認定しました。離してほしければ、あの動く死体をなんとかしてください!」
大介は苦笑しながら、震える少女を連れて歩みを進めました。
エイミーは目をぎゅっと瞑り、大介の分厚い胸板に顔を埋めるようにして、一歩一歩進みます。
衣服越しに伝わってくる、大介の熱。ドクドクと力強く脈打つ心臓の音。
(……この人、全然動じてない。あんなに怖い場所なのに、どうしてこんなに温かくて、静かなのかしら)
大介の方も、腕に伝わる彼女の柔らかい感触と、必死に自分を頼る重みに、別の意味で心拍数が跳ね上がっていました。
(……反則だろ、これ。こんなに全力で頼られたら、何があっても守らなきゃいけないって気になるじゃないか)
新宿ダンジョンの幻影で見た、冷たくて誰もいなかった部屋。
あの時の彼女の孤独が、大介の体温によって少しずつ溶かされていくような心地がしました。
「……エイミー、もう出口だぞ。いつまでくっついてるんだ?」
いつの間にか、二人は眩い陽光の下に出ていました。
エイミーはハッとして大介の腕から離れましたが、その顔は、お化けに驚いた時よりもさらに赤くなっていました。
「……ふん、まあ。大介さんの腕が、対アンデッド用の盾として優秀なのは認めてあげます。少しだけ、本当に少しだけ、頼もしかったですよ」
そっぽを向いて歩き出したエイミーでしたが、その手は無意識に、今さっきまで触れていた自分の指先をそっと握りしめていました。




