97話 新宿デート
「……よし、決まりだ。明日、遊園地に行くぞ」
大介がそう告げた瞬間、エイミーの顔がパッと輝きました。
「本当……! 本当!?大介さん! やっと、やっと約束の場所に!」
彼女は椅子から飛び上がらんばかりに喜び、着ていたローブの裾を揺らして部屋を歩き回りました。
かつて独りきりで魔導書をめくっていた少女の面影はなく、今は一人の女の子として、抑えきれない期待を全身で表現しています。
「ジェットコースターに、綿あめに、ネズミの被り物……。明日着ていくお洋服も選ばなきゃいけませんわ! 大介さん、私の世界のドレスでは浮いてしまいますかしら?」
「明日行くって決めたのに、着ていく服がないなんて……魔法で作り出すわけにもいきませんし、大介さん、どうしましょう!」
エイミーが切実に訴えるので、大介は苦笑しながら立ち上がりました。
「わかった、わかった。今から買いに行くぞ。幸い、新宿のデパートならここからすぐだ。お前のそのローブ姿だと目立ちすぎるから、とりあえず俺の大きめのパーカーでも羽織ってろ」
大介が差し出したグレーのパーカーを、エイミーは「……よいしょ」と一生懸命に被ります。
しかし、大介の鍛え上げられた体に合わせたサイズは、彼女にはあまりにも巨大すぎました。
「大介さん……これ、お布団か何かみたい? 前が見えませんし、袖が三回折ってもまだ拳すら出てきませんわ。なんだか、大介さんの抜け殻に閉じ込められたみたいです」
「抜け殻って言うな。お前が小柄すぎるんだよ。ほら、フード被れば顔は隠れるだろ。不審者に見えない程度に急ぐぞ」
「不審者って……一番怪しいのは、ネズミの耳をつけたがる予定のあな――痛いっ、おでこを小突かないでください!」
そんな軽口を叩き合いながら、二人は夕暮れの街へと繰り出しました。
煌びやかな照明と、溢れんばかりの色とりどりの服。
魔法使いとして審美眼には自信があったエイミーも、現代日本のファッションの多様さには目を丸くしています。
「大介さん、見てください! あの薄い桃色の布地、まるで春の治癒魔法のような優しい色使いですわ。あちらのスカートも、歩くたびに光を弾いて……」
「そんなにキョロキョロするな、迷子になるぞ。……ほら、あそこの店なら、お前に似合いそうな清楚な感じの服が多そうだ」
大介が指差したのは、少し上品で落ち着いた雰囲気のレディースブランドでした。
エイミーは緊張した面持ちで店内に足を踏み入れましたが、並んでいる服を見るうちに、魔法使いらしい鋭い視線で生地を選び始めました。
「この白いブラウス……透かし彫りのようなレースが、高度な術式のように繊細ですわ。これに、あの深い紺色のスカートを合わせたら……」
「いいんじゃないか。一度、試着してこいよ」
大介に促され、エイミーは数着の服を抱えて試着室へ。
数分後、カーテンが開いた瞬間、大介は言葉を失いました。そこには、異世界の魔導師ではなく、都会の街角に溶け込むような、けれど一際目を引く可憐な少女が立っていました。
「……どうかしら。大介さんの隣に並んで、おかしくないですか?」
「……ああ。めちゃくちゃ似合ってる。さっきの抜け殻パーカー姿とは正反対だな。お前、自分の魅力に無頓着すぎだろ」
「もう、さっきから一言多いんですのよ……。でも、大介さんにそう言っていただけるなら、これにします! 私、明日がもっと楽しみになってきました」
エイミーは照れ隠しに大介の二の腕をペシペシと叩きましたが、その顔はこれ以上ないほど綻んでいました。
結局、一式すべてを買い揃え、大介が「城(双葉荘のこと)」を守るために残しておいた資金からスマートに支払いを済ませました。
「大介さん、今日は私のわがままに付き合ってくださってありがとうございます。お洋服を選ぶのが、こんなに心が温かくなることだなんて知りませんでした」
帰り道、荷物を持つ大介の少し後ろを歩きながら、エイミーは幸せそうに呟きました。
「気にするな。明日を最高の一日にするために必要な投資だ。……さあ、帰ってしっかり寝るぞ。明日は朝から遊び倒すからな」
「はい! 大介さん、明日は寝坊したら氷結魔法で起こしてあげますから、覚悟しておきなさいな!」
「物騒な目覚ましだな……。わかったよ、ちゃんと起きるよ」
二人は並んで、夕闇に浮かぶ自分たちの「城」へと帰路につきました。
明日という日が、二人にとって忘れられないページになることを予感しながら。




