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第94話:王都の酒場と「半裸の怪談」


リディア王都、冒険者たちが集う酒場「跳ね駒亭」。 普段なら「どの魔境にどんな獲物がいたか」で盛り上がるこの場所が、今や異様な緊張感と、奇妙な熱気に包まれていました。


カウンターの隅で、中堅冒険者の男が震える手でエールを煽り、仲間に語りかけています。


「……見たんだ。本当なんだって。魔境の第十四ポイント、あの岩竜が徘徊する地獄に……**『彫刻』**がいたんだ」


「彫刻? 遺跡でも見つけたのか?」


「違う! 生きて動く彫刻だよ! 服も着ずに、滝壺でひたすら自分の腕を眺めて『……キレてる。今日の俺、キレてるわ……』って呟いてる男だ! 凶暴なフォレストウルフが飛びかかった瞬間、そいつ、見向きもせずにラリアット一発で首をへし折りやがった……。そのまま何事もなかったかのように懸垂を再開したんだぞ」


酒場全体が、その言葉に静まり返ります。 別のテーブルからも、目撃談が次々と上がりました。


「俺も見たぜ。あいつ、ちょっと前に酒場で見たときは妙におどおどしてたのに、筋肉のこととなると人が変わったようだ」


冒険者たちの間では、今や大介は「最強の戦士」を通り越し、**「出会うと最後、服を脱がされ筋肉の深淵へ引きずり込まれる災厄」**として恐れられていました。


「おい、見ろ……ガザルさんのところの店員だ」


酒場に入ってきたルナリス商会の使い魔が、困惑した顔でエールを注文します。


「聞いてくれよ。今日、大介さんが納品に来たんだが……。服は着てた。着てたんだがな、背中の筋肉が盛り上がりすぎて、挨拶した瞬間にバリバリッてシャツが裂けたんだ。 それでも本人は『おっと、また成長しちまったか』って笑いながら、破れた布を投げ捨てて帰っていったよ。もはや布という概念が、あの人の肉体を保持できないらしい」


「……終わったな。王都の服屋は、大介専用の『伸縮自在の魔導服』でも開発しない限り、全滅するぞ」


酒場に流れるのは、畏怖と、そしてどこか「自分もあそこまで仕上がってみたい」という奇妙な憧憬。


翌朝、魔境へ向かう冒険者たちの荷物には、いつの間にか「護身用の武器」ではなく、大介が愛飲していると噂の「高タンパクな干し肉」が大量に詰め込まれるようになったのでした。

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