3-38 悪夢
首都のある、いやあったというべきか。既に崩壊してあったというべき西側に展開する軍人達の状況は少しずつ苦しいものになってきていた。
昼夜を問わない襲撃も当初は散発的なものであったが、頻度が加速度的に上がっていく。
一方で避難民の探索と保護は既に止めていた。これは生存者はほぼ絶望的と踏み、そこに人材を割くことは非効率的と判断されていたためであった。事実、ここ数日は助けられる対象はおろか生きた魔獣にも出会う事ができなかった。
増えてきたのはアンデッド、ヒトも魔獣も問わず押し寄せて来る。
アンデッドはマナ不足の生き物の肉体がマナの代わりにオドを代償として補填しようとした結果の産物である。理性を失い、身体にも異常をきたして変異が進んでいき、最終的には体の境界線を失い黒い靄のようなゴーストへと成り下がる。とはいえ、そこまで至るには過程があり、むしろゴーストは触れたものからマナを奪う厄介な存在であるが物理的には脆いため未だマシな方に入る。
第一段階は自我の喪失、僅かに体に黒色の斑点も現れる。初期段階であればマナを多く取り込むことで元に戻る事もある。成り掛けとも呼ばれる。
第二段階段階になると黒色に変質した組織が目立つ様になり、重要な組織も変敗してゆき回復が見込めなくなる。変異した組織は歪な破壊と再生を繰り返しており、リミッターも外れたその肉体はかなりの怪力を生み出すことになる。この状態は恐ろしい風貌からゾンビとも呼ばれる。
第三段階になると変異した組織が肥大化し、さらに力強く恐るべき存在となる。黒変した組織は傷ついてもすぐに歪に再生して倒すのも難しい。この状態が一番危険であり、グールと呼ばれる。
自我はほぼ無いものの、マナを求めて彷徨う性質をもつアンデッド達は避難民達のマナを追いかけて東進してきていた。そして領都が近づくと、そのマナの多さに惹かれて押し寄せる。
マナを求めるアンデッド達にとってお互いは殆ど旨味のない不味い飯の様なもの、本当に周囲に何もなければ喰い合うこともあろうが、美味しい食事があれば糞を食べようとする者なんていない。格好の餌を前に我慢もせずに押し寄せる。
単体であれば訓練をした軍人達であれ問題無く対処できる。しかし、やって来るのが成り掛けからゾンビ、そしてグールに変わり、そしてまとまった集団としてやって来る様になると話ば変わって来る。
「砲撃隊用意!・・・ってー!!」
軍は最も一般的なオーラウェポンである近接武器の軍刀のほか、オーラの発現力の高い一つ目族などが使用するオーラを光と熱に変え撃ち出すオーラキャノンが使用されていた。
その効果は極めて高く、軍刀はまさかに近づくアンデッドを断ち切り、ほうげきは直撃したアンデッドは身体を大きく損壊させ活動を止めた。
しかしオーラウェポンには多大なオーラを、そしてその原料にもなるマナを大きく使用するという欠点がある。
軍も無策では無い。上街に囲う男性達にマナを積極的に産生させてその補充に当てていた。そしてそれは当初順調に回っていたが、避難民達へのマナの供給や男性達の疲労とボイコットによって日々増加し続ける使用量を賄いきれなくなってきていた。
頑丈そうにみえる城壁もアンデッド達が本気になれば群がり乗り越えていってしまうだろう。軍人達は戦線を維持しつつも追い詰められていく。それはプライドも捨てて補助要員として探索者達にも戦闘の支援要請が行われる程であった。
「・・・なんてこった。」
とある軍人が思わず声を漏らす。その双眸に映るのは見慣れた軍服。しかし、それは良い事では無い。厳しい訓練が無意識に刻み込まれていたのか、武器を握ったゾンビとグールの群れが押し寄せる。それは、アンデッド化した軍人達。体のリミッターが外れて尚鈍く光る武器を片手にしたそれは、東の領都を守る軍人と激しくぶつかり合うのであった。




