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3-37 噂

 突如として様々なキャンプ地や貧困地域に現れ、マナを撒き散らした銀色の仮面の一行の話は広く話題となった。とはいえ、領都に住む殆どの者にとっては家で寝ている間の出来事であり、それが只の噂話だと笑い飛ばす者の方が多かった。

 それでも暗い雰囲気の中、俄かに現れた奇妙で明るいニュースは少しばかり領都の雰囲気を良くしていた。


 避難民達に取ってみればまさに干天の慈雨であり、一晩にして当面のマナが補充され、朝にもまだ周囲より濃く漂うマナに救われた者は多かった。銀仮面の異様な出立と行動は一種の宗教じみた信仰になりかけている程であった。

 勿論軍の上層部にも連絡が行き、マナを只で配り回る行為に難色を示す者もいた。しかし、現地の軍人の報告で銀仮面が経済的な点についても言及していたこと、そして確かに軍が本来なら配給すべきマナであったことは間違いは無く、結果として大きな不利益にはなっていない事から不審者対策として多少の夜間の警備を増やす以外は黙認した。

 これは日増しに増える魔獣やアンデッドの対応で軍の余剰人員もかなり厳しく、甚だしい犯罪行為以外に人手を割く余裕がないと言う事情もあった。

 もっともこれが頻回に行われれば軍に対する求心力の低下も想定される為、対策を取らざるを得ないとはされた。

 余談だが、この旗を持った銀仮面の出立を聞いた何人かは「あいつ、やりやがった」とおかしな表情となったという。



「はっはっは!いやはや、問題なく終わって何よりだ。」


 かなりのマナを生成して放出したはずのエンドであったが、疲れを感じさせない様子で家まで戻っていた。

 一方でリンガとシッコは実のところ疲労ではなく過剰なマナの空間に居続けたことで意識を保つのに苦労しており、帰宅すると同時にリンガは椅子に腰掛け身体を震わせ、シッコは床に広がった。


「やはりマナを通しにくい素材の服を用意して正解だったようだね。しかし、普段から助手君のマナに慣れてる二人でもこの有様か。」


 コニイはダウンした二人を眺める。


「シッコには助けられた。よもや、ここまで領都の抜け道を知っているとは。」


 様々な場所に移動するにあたり、エンドは気配を察知する特性を存分に活かしたが、それでも道の全てを知っている訳では無い。しかし、シッコは裏道、抜け道、果ては下水道などの道を駆使して神出鬼没の銀仮面の一助となっていた。

 その絡繰は街中にいるスライムにある。シッコはそれらと接続する事でその記憶を読み取り、特にスライムは基本的に踏み潰されそうな道は基本的に通らないためそれは隠れて進むには非常に有用であった。

 実はシッコは普段から少しずつ街中に自身から分裂したスライムを放出しており、それらは普通のスライムよりも優秀で街中にネットワークとも言えるものを構築していた。

 シッコは基本的に分裂して自らが減る事は忌避しており、核が増える際には小型化して圧縮しあたかも一つの核であるかのようにしている。しかし、スライムというのは生殖本能のような所謂分裂本能といったものも要しており、その本能を定期的に解消すべく一部を外へ放流させていたのであった。


「・・・でもこの死の波が終われば、アイボーを探そうとするかもしれないね。軍だけじゃなくスラムとかにはあまり素性の良く無い奴らもいるし。」


 ある程度落ち着きを取り戻したリンガが背もたれに体重をかけて天井を仰ぐ。


「ふむ、有りあるかもしれないね。ああ、でもここだけの話スラムの顔役は軍の息が掛かっているから実際は軍が動く事になるのかな?ただ、助手君は背格好は似ているけど普段は外套を被っているしシッコ君がくっついていて胸とか腰とかの体型を変えているから案外大丈夫かもしれない・・・暫く旗を生やすのは自重した方が良いかもしれないけどね。」


「え?スラムって軍が噛んでたの?よく知ってたねコニイ。」


 驚くリンガにやれやれとコニイは自慢げな様子であった。


「私にはマギアンたちのネットワークと、探求者のネットワークもあるのさ。口外しない方がいい情報はいくらでもあるよ。」


 へー、と、リンガとエンドが感心していると、アイリスが夜食と茶を机に並べる。シッコもようやく形を取り戻し、一夜の奇行の話に花を咲かせるのであった。




 




 

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