3-39 指揮官
首都には勿論最も多くの軍人が居た。その中には男性達や要人を護衛し安全圏まで撤退した者も居る。また、限界を感じてマナの薄い地域から命からがら脱した部隊も多い。
だが、首都のトップにして軍の最高司令官である元帥の姿は逃げ出した者の中には無かった。
未曾有の災害の中、最後まで首都で対応を行い子供や男を逃すために尽力し、逃げ出した者の為に最後まで飢えた魔獣やアンデッドと化したヒトビトの防波堤として自らも半ば意識を失いながら残った軍人達も多かった。
そして、アンデッドとなる前に多くの者が自分で首を落としたり、他の仲間に介錯されてアンデッドとなる事なく務めを果たしたという。
だが、それでも全ての軍人がそうは行かない。命を惜しみ躊躇う者、逃げる者、上手く死ねなかった者達はアンデッドとなってしまった。もはやそこにはまともな意思はなく、守るべき避難民達を追いかけて襲いかかる討伐されるべき存在となっていた。
若く、途轍もなく疲労した一人の若い伝令兵が辿々しく話すその言葉に、東の領都の主である大将が深く頷く。
首都の元帥の他に、五箇所ある各領都にそれぞれ大将が居る。東の領都の大将はポケットの中の2枚のコインをカチャカチャと弄ぶ。現在の状況が描かれた地図を見るのは一人の長く生きた、力ではなく知恵を持って軍を統べるマギアンであった。
最前線では陣地が破られ、後方の防衛線までジリジリと下がっていく。オーラウェポンの砲撃隊が次々と敵の集団に穴を開けていくが、四肢が欠けても一切の恐れもなく突き進むその集団は武器を持つ軍人達にプレッシャーをかけてくる。
オーラを使用しないアンデッド達だが防御力は兎も角その腕力では兵士に拮抗する。特に厄介なのはグールとなった軍人であり、マナの代わりに取り込まれた高濃度のオドによって変質した装備を振り回す。鍛えられていたその身体はグールになってなお手強く、理性はないものの時折繰り出される身に染みた技は領都を守る軍人達を切り裂いた。
「クソっ!退け!退けっ!」
「無理だ!キリが無い!ちっ、もうマナが足りねぇ!!」
「少しずつ下がれ!遊撃部隊が向かってきている!」
この世界では有刺鉄線や柵は簡単に飛び越えられ、そうでなくても力を込めた一振りに耐えられない。陣地といっても少しばかしの障害物にしかならず、正にヒトが壁であり、城であった。
昼夜を問わずに迫り来る敵に兵力が足りていない。後方に下がり休息とマナを補給する兵士たちだが休める時間は少なく、何よりもオーラウェポンや全力でオーラを激らせマナを多大に消費する現状に補給が追いついていない。
既に予備役の者も前線の穴を埋め、探索者達も前線に出されつつある。市民も徴兵されて敵の圧力が低い第二線に配備されている。尤も数だけでは訓練された軍人には遠く及ばない。他の前線が抜かれればすぐに崩壊するのは目に見えていた。
男性からもマナをとにかく搾り取り補充に当てられていたのだが、多少のマナの参戦ならば問題無いが、多くのマナの産生は男性の心身にも多大な負荷をかけており、得られるマナはピークを過ぎて下降傾向にあった。
東の城壁上部に設けられた司令部。ガラス質の目は窓から遠くまで戦線を見渡す。ただの数と暴力に、暗い報告が続くそこで、冷静に指示を出し続ける。しかし、光明は見えずに覚悟を決めつつあった。
「・・・最悪は子供と男だけでも逃さなければ行けなくなるかな。もう勝手に逃げ始めている都民や探索者達もいるけどね。」
「そうですねぇ、この領都はマナが濃い。我々が死んでもアンデッドにはならんことが救いですなぁ。」
「私のようなマギアンは動きを停まるだけだけどねぇ。確かに首都よりマシだよ。元帥・・・あの子は頭が硬かったからねぇ。」
大将のしみじみとした口調に、幕僚が小さく笑みを浮かべる。
「閣下はかなり長く生きられてますからな、失礼ながら元帥も子供扱いですか。」
「ああ、よく知ってるよ。他の子のこともねぇ・・・私にも命の危機は何度もあったけど、今回こそは逃げられないかな。まったく!いささか、情報が足りなさ過ぎた!よもやここまでの大規模なマナ枯れだったとはね。混乱が酷すぎて把握に時間がかかりすぎた。」
「そうですな・・・ああ、そういえば巷で話題のあの銀仮面とかいうのが避難民ではなく我々にマナを分けてくれれば、もう少し保ったかもしれませんが。」
少し前に領都に現れ騒動となった明るいニュースを思い出す。
「ふふふ、そんな話もあったね。でもあの時は避難民へのマナの補充は必要だったのも確かだったよ。」
「分かってはいるんですがね。ま、あんなにマナを大盤振る舞いするなんて二度目は難しいでしょうな。」
劣勢で押し込まれつつある中、僅かな合間の談笑をしていた司令部に、一人の軍人が駆け込んできた。
「ふむ、どうした?」
「はぁ、はぁ、か、閣下!あ、現れました!」
「何がかな?」
「銀仮面です!!」
司令部の面々は顔を見合わせ、そして城壁の下、後退した兵士たちが集まる場所からマナが湧き立つのを感じるのであった。




