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3-40 灯籠

 東の領軍が劣勢になり、探索者達も戦闘経験のある集団として前線の隙間を埋めるようになっていった。

 エンドは戦闘には向かない種族である事を明言しており、その索敵能力で探索者達を指揮する本部の補助とすり抜けてきた小型の魔獣のアンデッドの相手に専念していた。一方でリンガはその戦闘能力から前線に出突っ張りになり、休憩時間以外は会えなくなっており不満が募る。探索者達はお目付役の軍人に加え、組合長であるタツキが実質的な前線指揮官として活躍していた。

 しかし、徐々に悪化する情勢は既に末端にも伝わっており、さらにはマナの補充も正規軍よりは圧倒的に少なく士気は低い。ホールの探索を共にしたラ族の面々はシタラを先に逃していた判断が正しかったことを改めて感じ、こっそりとマナの補充をエンドから受ける際にも早いうちに男である事を明かして領都から撤退することを勧めていた。

 現在は探索者や一般市民も含めて全員が形上徴兵されており、逃げ出すことは重罪に当たっていた。それでも取り締まる憲兵が足りていない事もあってか領都のさらに東へと逃げ出す者が後を絶たなかった。


 僅かな休憩時間にエンドとリンガは肩を並べて座り込む。


「うーむ、あまり状況は良く無いな。」


「そうだね・・・前線が完全に駄目になったらアイボーとコニイを担いで逃げるしか無いかな。」


「ふむ、現状は何が一番足りないと思う?」


「うーん、そりゃあ、マナだと思うけど・・・アイボー、馬鹿な事は考えないほうがいいよ。もしここで大きなマナを出したら、アンデッド達はマナが欲しくて一斉に襲ってくるよ。」

「そーだヨ!ご主人は早く逃げたほうがいいっテ!」


 リンガとシッコに諭されエンドは短く頷いたが、その目は強い意志を持って先を見る。その様子を見たリンガはため息をつき、小さく笑う。


「・・・はぁ、そんなバカなのがボクのアイボーだよね。どうせほっといてもやる気なんだろ?」


「はっはっは流石相棒!うむ、後方で動けない者が前に出ることが出来れば少しは変わるかも知れないしな。何より、逃げるのは流石に格好が悪い。私の我儘に過ぎん、シッコは逃げてもいい。」


「・・・」


 シッコは逡巡するが、ややあって投げやりに答える。


「マァどーしよーも無くなったらそうするヨ。ならサァ、動くなら早いほうが良いサご主人。」


「うむ・・・済まんな。」


「いいってことヨ。ほーんとバカだよネェ、ヒトってさ」


「はっはっは、だが、それで良い。下手に賢しく生きるよりもマシだ。」


 エンドは立ち上がると話をしているタツキとリンガの方へと足早に進む。


「オウ!どうしたんだよテメェら?」


 エンドは薄く笑みを浮かべ、懐から銀色の仮面を取り出した。それを見た二人は目を丸く見開く。


「オイオイ、まさかまた馬鹿なことをやるつもりじゃないだろうな!?」


「やはり貴方でしたか。その志につきましては素晴らしいと思いますが、しかしアンデッドの近くでマナを展開するのは大変危険です。貴方を目指して集まってくることになるでしょう。」


 心配する二人の言葉をエンドは軽く右手の掌を向けてやんわりと止める。


「分かっているさ。だが、人数で大きく劣っている現状、薄く防衛戦を張るよりも好転の目があるのでは無いか?オーラウェポンの砲撃の効果にも大きく影響を与えるだろう。正面から受け止めるものには負担をかけるが。」


 ただの勢いだけでは無いエンドの考えに、2人は口を閉ざす。タツキがバリバリと頭を掻き、尋ねた。


「・・・ご立派な事だがよ、何がテメェをそこまで動かす?男ということを明かせば護衛をつけて逃げる事もまだ出来る筈だ。」


「うむ、そうだな・・・レディ、ランファ。格好が悪い私と格好が良い私、どちらが好みかな?」


「は?・・・えぇと、そ、それは格好が良い方でしょうが・・・」


 唐突に話を振られたランファが慌てて言葉を返すとタツキが馬鹿にしたような口調で詰め寄る。


「あン?テメェは格好を付けたいだけで命張るのかよ!?」

「そうだ。」

「ハァ!?」


 即答するエンドに鼻白むタツキであったが、エンドは更に畳み掛ける。


「全くもってその通り。私にとっては、私が認められない私になる事が最も恐れる事なのだ。それが命よりもな。馬鹿は承知だ、だがやる以上はなるべく上手くやりたいものだよ。力を貸して欲しい。」


 仮にエンドのなす事が形になったとしても、状況の好転までは難しい。しかし、全く暗い展望よりはまだマシに見えた。そして何より、決意を固めたエンドの姿がどこか眩しく、力を貸してやろうと思う程の好感度も二人にはあった。


 

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